速水奨の“低音ボイス”が物語に厚みを生む 『名探偵コナン』諸伏高明役で発揮した存在感

速水奨の“低音ボイス”が生む物語の厚み

 では、なぜ私たちはこれほどまでに低い声に惹かれるのだろうか。

 まず考えられるのが、低音がもたらす「印象形成」の効果だ。たとえば、立教大学の研究では、政治家の声の高低によって有権者の印象が変わることが示されている。声が低いほど「好感」や「信頼」を得やすく、説得力も高く感じられる傾向があるという(※1)。声というのは、言葉の内容以上に、その人の印象”を左右してしまう要素なのだ。

 また、声の専門家・山﨑広子氏は、低周波帯域を多く含む声には聴く人の精神を落ち着かせ、安心感をもたらす作用があり、脳をリラックスさせる効果があると指摘している(※2)。

 さらに山﨑氏は、この傾向がビジネスシーンにも現れていると述べている。かつてデューク大学とカリフォルニア大学が行った調査では、CEOの声が低いほど、年収や企業規模が大きく、在任期間も長くなる傾向があったという。

 「頼りがいがある」「落ち着いている」。そんな印象を与えやすい低音の声は、リーダーシップの評価にも直結するというわけだ。無意識のうちに、私たちは低音の居心地のよさに惹かれ、信頼や安心を預けているのかもしれない。

 音響の視点から見ても、低音には空間を包み込む力がある。高音がキーンと鋭く響き渡るのに対し、低音は空気を深く振動させ、聴覚だけでなく身体ごと共鳴させる。いわば、耳ではなく「肌で感じる」ことができる声。それもまた、低い声ならではの魅力のひとつだ。

 速水奨の超低音ボイスは、まさに“体感する”声だ。スクリーン越しの一声が、物語の温度を変え、こちらの感情を静かに揺さぶってくる。その深みを全身で浴びるように感じられることこそ、劇場でしか味わえない贅沢なのかもしれない。

参照
※1. file:///Users/user/Downloads/AN00026486_58_07%20.pdf
※2. https://studio.persol-group.co.jp/kininaru/230407-1

■公開情報
劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像(せきがんのフラッシュバック)』
全国東宝系にて上映中
キャスト:高山みなみ(江戸川コナン)、山崎和佳奈(毛利蘭)、小山力也(毛利小五郎)、林原めぐみ(灰原哀)、高田裕司(大和敢助)、速水奨(諸伏高明)、小清水亜美(上原由衣)、岸野幸正(黒田兵衛)、草尾毅(安室透)、飛田展男(風見裕也)、鮫谷浩二(平田広明)
原作:青山剛昌『名探偵コナン』(小学館『週刊少年サンデー』連載中)
監督:重原克也
脚本:櫻井武晴
音楽:菅野祐悟
アニメーション制作:トムス・エンタテインメント
製作:小学館/読売テレビ/日本テレビ/ShoPro/東宝/トムス・エンタテインメント
配給:東宝
©2025 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
公式サイト:https://www.conan-movie.jp

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