山寺宏一×瀧内公美が対照的な教師で『あんぱん』を盛り上げる 嵩の刺激的な生活の始まり

『あんぱん』嵩の刺激的な生活の始まり

「ここには自由があるんだ」

 東京で刺激的な日々を送る嵩(北村匠海)から届いた手紙に書いてあることはどれも、のぶ(今田美桜)には別世界のことのように思えた。NHK連続テレビ小説『あんぱん』第6週が幕を開け、戦争の影がじわじわと忍び寄る中で少しずつ嵩とのぶの道が分かたれていく。

 本作を手がける脚本家の中園ミホは、放送前のインタビューで「やなせさんを描くということは、戦争を描くということだと思っています」(※)と答えていた。この第6週から日中戦争に突入し、ついに戦争が本格的に描かれることとなる。

 やなせの戦争体験から生まれた“アンパンマン”は「逆転しない正義」を体現するキャラクター。それでは逆に「逆転する正義」とは何かを示すのが、今ののぶだ。1937年の春を迎え、女子師範学校の二年生になったのぶは指導に一層力が入る黒井(瀧内公美)から愛国心を叩き込まれる。

 「どんな教師になりたいか」という一見、将来の夢を尋ねるような質問も、ここではテスト問題のようなものだ。「大和魂を持つ教師」が模範解答であり、「子供に体操の楽しさを教える教師」というのぶの解答は不正解として黒井から怒号が飛んでくる。激情的なようで、どこかAIのように無機質。そんな黒井の人物像を瀧内公美が見事なバランス感覚で体現している。

 それとは対照的に描かれるのは、東京高等芸術学校に入学した嵩の担任・座間(山寺宏一)だ。山寺宏一といえば、“七色の声を持つ男”という異名を持つ声優で、『それいけ!アンパンマン』(日本テレビ系)では、めいけんチーズやカバオくんをはじめとする複数のキャラクターを担当。2019年8月には初代声優の増岡弘からジャムおじさん役も受け継いでおり、2024年11月に山寺の本作への出演が発表された際にはファンから歓喜の声が上がっていた。

 そんな山寺が演じる座間は、お国のために生きることが善とされる時代においては奇特な人物。「君は将来何になりたい?」という嵩への質問も、黒井からのぶへの質問と似ているようで性質は全く異なる。座間の質問には明確な答えは存在しない。「君らの将来は真っ白だ。何色に染まるかは君ら次第だ」と自由を説き、「おまえら、銀座に行け! 世の中を心と体で感じてこい」と型破りな指導で生徒たちを驚かせる。座間はやなせの恩師がモデルになっており、実際にやなせも同様に指導を受けたそうだ。この時代にも自由な心を忘れない人たちがいた。その事実だけでも、心が少しだけホッとする。

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