『サンダーボルツ*』になぜ惹かれるのか? はみ出し者たちだからこそ“共感”できる物語に

『サンダーボルツ*』になぜ惹かれるのか?

「アベンジャーズは来ない」

 これは『サンダーボルツ*』の予告映像にもある、CIA長官ヴァレンティーナ・アレグラ・デ・フォンテーヌのセリフだ。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)を牽引していた存在が、もういない。『アベンジャーズ/エンドゲーム』から早6年、彼らの不在を改めて実感させられる。かつてチタウリの侵攻によってその場に居合わせた人たちの心や街が壊された。そのトラウマを抱えたまま、ニューヨークは再び何者かの手によって危機を迎えようとしている。そしてこの街を守るのは、アベンジャーズではない。それぞれがトラウマ漬けのはみ出し者たちのチーム……“サンダーボルツ*”なのだ。

ファイナル予告|過去は消えない、でもやるしかない。|「サンダーボルツ*」5月2日(金)日米同時公開!

これまでのマーベル作品とは一味違う

 『サンダーボルツ*』が他のマーベル作品と一味違うような作品であることは、制作段階から囁かれていた。監督を務めるのは、A24製作のNetflixシリーズ『BEEF/ビーフ』で知られるジェイク・シュライアー。同作でエミー賞やゴールデングローブ賞など数多くの受賞を経た彼は、ナット・ウルフとカーラ・デルヴィーニュ出演の『ペーパータウン』を監督したり、ハイムやカルヴィン・ハリス、カニエ・ウェストやケンドリック・ラマーなどのアーティストのMVを手がけたりと、その才能は多岐にわたる。

 一貫してインディーの雰囲気と、作品の中に漂う孤独や葛藤、それを映像で表現することに長けているシュライアーが監督したからこそ、『サンダーボルツ*』はエモーショナルで、メランコリーで、泣ける作品になったのだと感じる。

シリーズの“影”となってきた者たち

 孤独と葛藤、それはまさにバラバラなチームを手繰り寄せる共通点と言える。バッキー・バーンズ(セバスチャン・スタン)は過去にヒドラに洗脳され、“ウィンター・ソルジャー”として多くの人の命を奪ってきた。かつての相棒キャプテン・アメリカことスティーヴ・ロジャース(クリス・エヴァンス)の光に引っ張られてきたが、同時に彼の存在はその影でもある。洗脳が解けた今も自分の血塗られた過去はなくならない。同じような葛藤を、エレーナ(フローレンス・ピュー)も抱えている。幼い頃からロシアのスパイ機関レッドルームに洗脳され、暗殺者として育てられた。ナターシャ・ロマノフ(スカーレット・ヨハンソン)とは偽りの家族だったが、本当の姉として慕っていた。それゆえに、彼女が死んだと知った時、ホークアイ(ジェレミー・レナー)に報復しようとしたが、死の真相を聞いて感情の行き場を失う。

 エレーナの擬似家族であり、父親として一緒に過ごしてきたレッド・ガーディアンことアレクセイ(デヴィッド・ハーバー)は、かつてソ連がキャプテン・アメリカに対抗するために生み出した超人兵士であるものの、キャップのように誰かに求められたこともなく、ヒーローになりたかったのになれなかった過去を抱えている。同じくUSエージェントことジョン・ウォーカーもまた、かつては愛国心に満ち溢れ政府の期待を背負って“二代目キャプテン・アメリカ”に指名されるも、その重責に耐えられず間違った正義(人前でテロ組織の人間を惨殺)を執行してしまう。彼にも守りたい、自分を誇りに思ってほしい家族がいた。

 ゴーストことエイヴァ・スター(ハナ・ジョン=カーメン)も、エレーナたちと同じように自らの意思に反して特殊な力を授かってしまった。子供の頃に父親が起こした量子トンネルの事故に巻き込まれ、全身の細胞が分離と収束を繰り返す……“幽霊”のようにあらゆる物をすり抜ける体質に悩まされている。かつて『アントマン』シリーズにヴィランのような存在として登場したが、ただ痛みを緩和させ生き延びたいと切に願う姿が印象的だった。そして、タスクマスターことアントニア・ドレイコフ(オルガ・キュリレンコ)はエレーナとアレクセイと戦った、レッドルームの支配者ドレイコフの娘である。彼女もまた洗脳を受け、父親にとって都合の良い駒として人々を殺めてきた。

 トラウマと暗い過去を背負った彼らは、チーム“サンダーボルツ*”。この名前の由来が、エレーナが子供の頃に所属していた、一度も試合に勝ったことのないへっぽこサッカーチームの名であることに、なんだか余計に愛着が増すのだ。そしてその名前の後ろについている「アスタリスク」は、6人が背中を合わせている姿でもあり、劇中でも“背中合わせになる”ことが彼らの最初の協力プレーとして描かれている。何より、古代ギリシャ語で「小さな星」を表すその言葉の通り、それぞれが作品の中で彼らにしか出せない耀きを放つのだ。

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