『ガンニバル』は日本産ドラマの歴史を変えた “狂い続ける”姿勢が成功の要因に

加えて重要なのは、全てのバトルシーンに必然性が感じられること。賛同できる/できないは置いておいて、渦中で戦う者たちの心情や思考、信念が丁寧に提示されているため、物語の中で浮くことがない。大悟であれば暴走がエスカレートして限界突破状態になってはいくが、その根底には「子どもを救うため(なら皆殺しもいとわない)」という気持ちがある。これは銀の息子に対する想いとも通じるもの。各々が大切な存在を守るため、その利益を優先して衝突していくのが『ガンニバル』の特徴でもあるのだ。シーズン2のバトル部分が進化なら、ドラマ部分は大悟・銀・恵介・岩男(吉原光夫)等々、より各々の心理を掘り下げており、“深化”を遂げているといっていい。笠松将はシーズン1での恵介を「まだ手札を隠している状態」と評していたが、シーズン2ではそれぞれに対する印象がシーズン1とはまるで変わるはずだ。
個性的なキャラ立ちに行動理念が的確に結びついているからこそ、「大悟VS後藤家」のメインストーリーから銀の過去編や恵介の母・藍(河井青葉)と彼女が保護した元生贄・寺山京介(高杉真宙)のパート等々に移っても熱量が落ちることがなく、全員が主人公的であり重要キャラクターであるような感覚で没頭できる。ドラマオリジナルとなる恵介と父(六角精児)の切ないエピソードも絶妙で、畳みかけながらも押せ押せ一辺倒にせず、しっとりとしたシーンでは静的に見せる緩急の使い分けも秀逸だ。描写等々のルックはどんどん狂い続けるのに中身は緻密に創り上げ、視聴者をふるい落とさない『ガンニバル』。フォローを欠かさない親切さも、途中離脱者を出さずにむしろ増やせた大きな理由だろう。
バトルとドラマに象徴される、攻守のバランス。それらが最大級に結実したのが、物語のフィナーレとなるシーズン2第8話とエピローグだ。原作ではイヤミス的な後味の悪さが尾を引く終わり方だったが、実写版では供花村の“その後”と大悟たちが選んだ結末が静かなエモーションを掻き立てる。人によっては感動するだろうし、別の人が観れば「それでいいのか?」と複雑な感情を抱くかもしれないラストだが、シーズン2第1話とは打って変わった静けさ漂うシークエンスが、“家族”というテーマを強固に浮かび上がらせている。
家族とは元来、他人の物差しで推し量れるものではなく、その家族ごとに正解があるものだろう。故に時として他者とぶつかる事態が引き起こされ、本作でいえばましろのために暴走する大悟や「後藤家以外は動く肉塊」と言ってのける銀のような極論にまでたどり着いてしまう。その逆に、本人たちが幸せなら他人が過干渉するべきものでもない。自分たちだけの幸せを手にした大悟たちを遠景で見つめるショットにはある種の断絶による寂しさが漂うが、これは阿川家が機能不全の状態から脱した証明でもあろう。そしてまた、後藤家がたどる結末にもどこか物悲しさが漂い、次世代の子どもたちが見せた希望の欠片もあって「家族とは何だったのか」という問いを投げかける。しかしその答えもまた、作品の中では明確に示されない。だが先述したように、答えのなさこそが家族という共同体の本質でもあるのだ。
『ガンニバル』は日本産ドラマの歴史を変えたエポックメイキングな作品だ。だが、好き勝手に暴れっぱなしな稀代の問題作ではない。家族という普遍のテーマと今一度とっくりと向き合い、旧態依然とした体制が次世代を苦しめる姿や好き勝手に搾取しすぐに忘れていく世間といった社会的な課題感を突き付ける。そしてさらには余韻と共に視聴者に投げかけ、考え続けることを促す――。実に骨太でこの先も風化されない真のエンターテインメントが、ここに誕生した。
■配信情報
『ガンニバル』シーズン2
ディズニープラス スターにて独占配信中
出演:柳楽優弥、笠松将、吉岡里帆、高杉真宙、北香那、杉田雷麟、山下リオ、田中俊介、志水心音、吉原光夫、中島歩、岩瀬亮、松浦祐也、永田崇人、ジン・デヨン、六角精児、恒松祐里、倉悠貴、福島リラ、谷中敦、テイ龍進、豊原功補、矢柴俊博、河井青葉、赤堀雅秋、二階堂智、大鷹明良、利重剛、中村梅雀
原作:『ガンニバル』二宮正明(日本文芸社刊)
監督:片山慎三、佐野隆英、大庭功睦
脚本:大江崇允、廣原暁
プロデューサー:山本晃久、半田健
アソシエイトプロデューサー:山本礼二
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