劇場版『名探偵コナン』は“ファン以外”でも楽しめる? 初心者が『隻眼の残像』を観てみた

劇場版『コナン』はファン以外でも楽しめる?

 まず安心してほしいのは、序盤で『名探偵コナン』という物語の前提と主要な登場人物、また、この映画に関係する既存キャラは一通り驚くほどコンパクトに紹介してくれる。
その上で、昔の長野県警の話は頭に入れておいた方が良いのだろう。劇中でも、会話の中でおそらくアニメの過去1話分ほどを例に挙げて、あの時のあの人たちであるという触れ込みが軽くはあるものの、人物像はさっぱりわからない。特に、今作では長野県警の男女の、子供向けとは言い難いほどビターでどうしようもないすれ違いなどが描かれたラブストーリーも重要な軸となるので、その知識があれば単に映画に興奮するのみならず、きっと涙をも流したであろう。

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 また、コナンたちがまだ小学校1年生であるということも絶対に覚えておいてほしい。筆者はコナンや灰原の感じから彼らが小6ぐらいのつもりで鑑賞してしまった。それでも、光彦と元太が勇気を振り絞って必死に立ち向かうシーンに関しては、心から胸を打たれ今にも泣きそうになりながら見守ったものだ。しかし、前提として彼らが小1であり、あれが小6ではなく小1の奮闘ぶりであると知っていれば、あのシーンでは確実に号泣していたであろう。これは今回で最も悔やまれる部分だ。

 それから、コナンが使うスーパーアイテムに対する周りのみんなの温度感も知っておいた方がいいであろう。観る前のイメージでは、蝶ネクタイの変声機などをこっそり使っている印象から、スケボーやシューズなどのアイテムも「コナン=工藤新一」であることと同じくらい周りの大人には配慮して慎重に使っているものかと思っていた。しかし、彼は街中でもどこでも平気で使い倒している。周りの大人もそれを当たり前のように見ている。劇中では、コナンがスーパーパワーシューズのようなものを使って、かなり大きなガスボンベをアメフトのように蹴り飛ばしまくるシーンがあるのだが、それに協力している警察の人も「コナンくん、ボンベはこれで最後の1本だよ!」と声をかけるぐらいには完全に日常の一幕となっているようだった。こういったバランスも事前にわかっていれば、さらにどこかの大きな涙につながったであろう。

 加えて、なんとなくインターネットなどを通して『名探偵コナン』のことを変に知ってしまっている分、実際の物語におけるギャップがあったことも注意喚起しておきたい。

 まず、『名探偵コナン』の犯人といえばでお馴染みの、「目ん玉だけが描かれた全身真っ黒いシルエットの人」が出てこなかった。今回は犯人がヘルメットなどを着用していたから特別必要なかったのかもしれない。こればかりは少しガッカリした。また、オープニングのコナンの決め台詞が「見た目は子供、頭脳は大人」云々ではなく、「小さくなっても頭脳は同じ、迷宮なしの名探偵、真実はいつもひとつ!」となっていた。なにかしらのコンプライアンスなどで変わったのだろうかと調べてみたところ、劇場版だけ毎回この言い回しに変わるものだそうだ。それから、映画のCMなどで印象深い、コナンが「ラーン!」と叫ぶシーンもなかったように思う。特に今作は、コナンと蘭の恋愛はほぼ皆無で、長野県警の大人な恋愛模様にフォーカスされていたからというのも大きいのだろうか。また、こちらも流石に毎回叫ぶわけではないらしい。

 そして、“大人な”と言えば、今作自体が警察内部の組織的対立や法改正などがキーワードになってくる濃厚な刑事ドラマとしても成立しているので、警視庁、県警、公安、警部、管理官、検察などの警察組織に関するなんとなくの知識もあった方がよりスムーズに話に入れるのかもしれない。この辺りについては『コナン』を観ている人たちは必然的に詳しすぎるはずなので一般常識として話が進む。

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 今作を鑑賞した中で、『コナン』初心者としてある程度の不便を感じた部分は基本的には以上である。

 当然、ここまで記した“欲しかった知識”も、やはりあったらよかったというものにすぎず、今作は映画としては誰が観ても間違いなく面白い。それでも、『コナン』愛があればあるだけ、プラスアルファでもっともっとどこまでも楽しめるというのが、劇場版『名探偵コナン』の大きな魅力なのだろう。事実として、公開から3日間の興行収入でも34億円超えという怪物コンテンツっぷりを見せている(※)。あの、平日の朝からの大熱狂もごく自然なことだったのだ。

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 例えば、毎年の恒例行事と言えるエンタメが、今の日本にどれだけあるだろうか。年末年始でさえ様々な番組が終わり、姿を変え、一時代の風物詩と呼ばれていたものたちは随分前から変遷期に突入していると言える。それでも、毎年作られる劇場版『名探偵コナン』シリーズの勢いは衰えるどころか、今作も歴代最高のメガヒットを視野に入れながら絶賛上映中なのだ。

 また、鑑賞後にSNSで『コナン』の反応を何気なく探っていると、今作とは別にとある異常が起きていた。

 現在開催中の大阪万博を使って劇場版『名探偵コナン』が作られたらこうなるだろう、という話題でX(旧Twitter)が大盛り上がり。次から次へと、そのタイトル、話の展開、今作の阿笠博士クイズコーナーの内容などなど、映画で絶対にあるシーンを描写する投稿が盛んに行われ、完全に“コナン映画あるある大喜利大会”の様相を呈していた。しかも、2桁万バズ連発。この『名探偵コナン』というコミュニティは、尋常ではないと思った。さらに、「それは違うだろ」と言った批判、炎上、マイナス、否定の方面で盛り上がる様子が全くと言っていいほどない。ファンのみんながみんな『コナン』を純粋に愛しているから、共感の嵐のみでネットが沸いているようだ。無反応、もしくは「わかる!」だけで動いている、美しいインターネット。数年ぶりに見たような気もするネットの形がそこにはあった。劇場版『名探偵コナン』は伝統芸能の域に足を踏み入れているのかもしれない。

 この素晴らしき『名探偵コナン』の世界に、飛び込むなら今である。元より、それは早ければ早いほどいいのだから、常に、今か、今しかないのだ。もしかすると、私は今作の小五郎のおっちゃんとは打って変わって、また『コナン』完結まで一眠りさせていただくかもしれない。それでもきっと劇場版『コナン』は来年も再来年もいつまでも、ファンの大熱狂と共に、誰が見ても楽しめる形で私たちを待っていてくれるのだろう。

参照
https://realsound.jp/movie/2025/04/post-1997671.html

■公開情報
劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像(せきがんのフラッシュバック)』
全国東宝系にて上映中
キャスト:高山みなみ(江戸川コナン)、山崎和佳奈(毛利蘭)、小山力也(毛利小五郎)、林原めぐみ(灰原哀)、高田裕司(大和敢助)、速水奨(諸伏高明)、小清水亜美(上原由衣)、岸野幸正(黒田兵衛)、草尾毅(安室透)、飛田展男(風見裕也)、鮫谷浩二(平田広明)
原作:青山剛昌『名探偵コナン』(小学館『週刊少年サンデー』連載中)
監督:重原克也
脚本:櫻井武晴
音楽:菅野祐悟
アニメーション制作:トムス・エンタテインメント
製作:小学館/読売テレビ/日本テレビ/ShoPro/東宝/トムス・エンタテインメント
配給:東宝
©2025 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
公式サイト:https://www.conan-movie.jp/

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