『べらぼう』古川雄大演じる北尾政演=山東京伝は何者? “吉原を愛した男”の生涯を解説

『べらぼう』古川雄大演じる山東京伝は何者?

京伝の死後

 京伝の死因は脚気衝心(ビタミンB1欠乏症による心不全)だと伝わる。前日まではいつも通り執筆し、当日は自分の書斎新築祝いの宴会に出席したが、帰宅途中で体調不良となり、帰宅後亡くなった。

 馬琴の記録によれば、京伝の死後、百合の精神が錯乱したとして、翌年には京伝の弟・京山が「兄の店を守るため」と京伝宅へ乗り込んだ。その上、百合を物置に閉じ込めてしまったという。翌春に百合が亡くなると、京山は兄の遺産を継いで家まで新築してしまうのだ。

 と書くと京山が非情な人間のように思えるが、馬琴は京伝の生前から京山とはウマが合わず、彼の記録は京山について悪意を持って書かれていることは否めないという。

 精神を病んだ百合による経営で、京伝店の損失は80両にも及んでいた。京山はその言葉通り「兄の店を守るために自ら継いだ」とも考えられるのだ。

遊女や吉原を心から愛した京伝

 京伝は、遊里本「洒落本」で常に遊女の立場に理解を示した遊女観を展開している。

 たとえば、「床で客が遊女に誠を見せれば、遊女も誠を見せてくれる。それこそが座敷の楽しみだ」というのである。遊女を安く買いたたいたと自慢するような輩を京伝は「面の皮の厚いケダモノ」と糾弾し、逆に女郎の噓は「世渡り」だから仕方がないと許した。

 また、後年の読本や合巻でも遊女を肯定的に描いた。武家の当主を色香で迷わせるような遊女を描きながらも、遊女に罪はなく、ただ不運だったからだと書く。

 遊女観をめぐって馬琴と口論になったともいう。遊女と妻を同等に見ることを批判した馬琴に、京伝は「遊女にも賢く良き妻となっている者はいるし、遊女が身売りするのは親兄弟のためであることがほとんどだ。身体を万客に任せる遊女を憐れまずにいられようか」と怒りをあらわにしたと伝わる。

 身請けされた遊女の中には五代目・瀬川(小芝風花)のように不幸な結婚生活を送ったケースは少なくない。京伝の1人目の妻・菊園のように若くして亡くなる遊女も多い。また、京伝の死後病んだ2人目の妻・百合の最期は哀れでしかない。

 それでも、京伝のように心から遊女を愛した夫を持った2人の妻は、やはり幸せだったのではないだろうか。

主要参考文献
『滑稽洒落第一の作者 山東京伝』佐藤至子(ミネルヴァ書房)
『大吉原展」東京藝術大学大学美術館・東京新聞編』(東京新聞/テレビ朝日)
『蔦屋重三郎と江戸文化』伊藤賀一(Gakken)など

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK

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