『あんぱん』も描く“朝ドラあるある”の男尊女卑問題 正義と悪が介在できない親子の縁も

さて。女性の生きづらさを感じている人物はのぶだけではなかった。嵩を柳井家に残して再婚してしまった登美子(松嶋菜々子)が離縁され、8年ぶりに御免与町に戻ってきた。居場所がないからと柳井家に当然のように居座る登美子。登美子をよく思う人はこの町にほぼいない。だが嵩だけは母を悪く思えない。

登美子は、嵩が賞をとった漫画を褒め、父・清(二宮和也)に似ていると上機嫌。漫画を面白いと言って頭をなでられたら、やっぱり嬉しいものだろう。このあと、のぶが正義感をふりかざし、登美子を批判するのだが、親に捨てられた子どもの親への強烈な思慕は、何ものにも勝るものはないのだ。そこには正義や悪は介在できない。
登美子は登美子で、女性が家庭を守るために存在するというような考え方の犠牲者である。夫が生きている間はそれでいい。夫がやさしく、甲斐性もあれば、しあわせに生きていける。だが、ひとたび、夫がいなくなったら、どうやって生きていけばいいのか途方にくれてしまう。登美子は生きるためにお茶、お花、お琴と習い事をたくさんしたようだが、そうして結婚しても、夫がいなくなったら居場所がないのだ。
登美子は子どもを置いて再婚する道を選んだ。どうやら、派手好きでお金使いが荒いから、経済的に恵まれた生活を選んでいるのだろし、それは必ずしもいい生き方ではないとは思うのだけれど。この頃の女性が、社会進出可能であれば、登美子だってバリバリ働いて、好きなことにお金を使ったうえで、嵩を育てることができたかもしれない。経済的自立の道を見つけることができず、子どもを捨てるしかなくなったのは、ひとえに社会進出の可能性が閉じられていたがためかもしれないのだ。そう思うと登美子も気の毒になってくる。

朝ドラあるある女性の社会進出に関して、女性のみならず社会的に不利益を被っている人たちを法のちからで救いたいと千尋が立ち上がる。医者ではなく法律を学ぼうと考えはじめる。
ところで、登美子が褒めた嵩の漫画は、のぶがホップ・ステップ・ジャンプと軽やかに困難を飛び越えていく漫画であることが皮肉にも見えた。嵩の漫画は、のぶがやりたいことをできるようにと願いや応援をこめたものと思ったら、そのオチは、西郷隆盛という大きなおもしで、「さいごうドーン」とぶつかってしまうのだ。この漫画を用意したスタッフの、NHK大河ドラマ『西郷どん』を描いた中園ミホへの遊び心だと思うが、のぶが西郷隆盛というたくましさの象徴のような男性にぶつかるエンドがこの時代の限界を感じさせる。のぶが漫画を褒めないのは、そのせいだったりして。そして、世間のおもしをはねのけるのぶを見て法の道に進みたいと考えた千尋の株がますます上がってしまう。嵩もがんばれ。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、志田彩良、二宮和也、瀧内公美、山寺宏一、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、阿部サダヲ、妻夫木聡、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK






















