『べらぼう』森下佳子脚本の運命の引き裂き方が容赦ない 田沼意次×松平武元が最期に見た夢

『べらぼう』意次×武元が最期に見た夢

 この回のタイトルが「死を呼ぶ手袋」というだけあって、視聴者である私たちにはわかっていた。あの手袋にきっと毒が仕込まれていたのだろうと。そして、手袋を意次に手配させたのは、大奥の最高権力者と呼ばれる大奥総取締の高岳(冨永愛)であり、その背後には怪しく笑う一橋治済(生田斗真)の影がチラついていることも。

 家基の親指を噛む癖を利用した毒殺。源内は、さながらミステリードラマのように事件のトリックにたどり着く。江戸市中での乱心っぷりにどこか遠いところにいってしまったかのように感じたが、彼の中にはまだあの頭がキレる魅力たっぷりな平賀源内がいてくれることに安心せずにはいられない。

 そして、一足先に疑惑の手袋を手に入れた「白眉毛」こと松平武元(石坂浩二)が、意次を呼び出し、いよいよ追い詰めるかと思いきや、その犯人は「そなた以外の誰かであろう」と言い切るシーンにも胸が熱くなった。

 意次による犯行であれば、手袋を武元に押収されることなく、もっとうまくやりきれるはず。それは何かと対立してきた武元が、誰よりも意次を認めているからこそ出てきた言葉だった。時代の変革期に異なる考え方で意見をぶつけ合ってきた2人。だが、この国を思うその志は共通していたのだとわかる。

 「見くびるな」そう武元が放った言葉に、これを機に意次を追放するのではと思っていた我々の背筋も伸びたような気がした。武元が意次にとって目の上のたんこぶ的な存在でいたのは、彼の進める政策があまりに金の力を過信していることへの懸念からだった。今回武元が意次にしたように、金は人がピンチに陥ったときに手を差し伸べてはくれない。金はそれくらい頼りないものだと諭す。

 新しい時代を切り開いていく意次と、その光がもたらす影の部分まで見つめる武元。異なる視点を持つ2人が、この事件をきっかけに手を取り合っていく……はずだった。それは蔦重と瀬川が吉原をより良くしたいという夢を見たのと同じように、意次と武元がより良い国を目指して夢を見た時間だったかもしれない。しかしその夜、武元は命を落とすことになるのだった。

 心が通ったと思った瞬間に、運命の渦に引き裂かれる。森下佳子脚本の描く、そんな切なさに何度だって胸を掻きむしらされる。史実を知る身からすると源内も意次も、これから苦しい展開が待っているはず。鱗形屋に続いて「恩人」と言える人たちが追い込まれていく中で、蔦重は何を思い、そしてどう行動していくのか。叶わなかった夢たちが引き寄せる現実を、覚悟して見届けたい。

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
総合:毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
BS:毎週日曜18:00〜放送
BSP4K:毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK

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