パク・ジフンが“天性のアイドル”から一変 『弱いヒーロー』で見せた陰鬱さと秘めた暴力性

シウンを中心に、チェ・ヒョンウク演じるスホ、ホン・ギョン演じるボムソクが、ヨンビンら不良グループに抵抗する中で、友になっていくさまが描かれる本作。シウンは、多忙な両親の間で、幼い頃から孤独に過ごしてきた。スポーツコーチの父(キム・ソンギュン)と、オンラインで数学教師をしている母(コン・ヒョンジュ)は、幼いシウンが居るときも、彼の目前で体の弱いシウンのことで言い争い、、彼は両親に心を開けないまま孤独に勉強に打ち込んできた。高校生となった今、シウンは常にひとりで家に居る。生きることに忙しい両親は、子供のことが気にかかりながらも、構う時間が作れないのだろう。そんな子供がたくさんいることを本作は暗に訴えかける。シウンの孤独は、彼だけに限らず、多くの子供たちが抱えているものだろう。
そんなシウンの瞳には、孤独が映し出されている。怒り、虚無と諦念に満ちた瞳の奥底には、涙を流す幼少期のシウンがいるかのように感じられ、パク・ジフンの名演に釘付けになってしまう。シウンが押し殺してきた感情を爆発させ、不良らに暴力でやり返す演技は圧巻だ。

さらに、シウンらの学校に転校してきたボムソクの置かれている環境が痛ましい。物語の前半では、優等生のシウンが、頭脳戦で不良たちに立ち向かう。やがてスホとボムソクという友を得たことで、彼らと力を合わせて、さらに強大な暴力や悪の組織に立ち向かっていく。そんな姿を見ると、彼らを応援せずにはいられない。

シウンらと対峙する“悪役”たちも、素晴らしい演技を見せている。視聴者を一気に物語の世界に引き込む最初の“悪役”ヨンビン役のキム・スギョムがまた憎たらしく、観ているものの感情を逆なでする。『D.P.』繋がりでカメオ出演を果たしたシン・スンホが、ヨンビンの従兄のソクテ役として登場し、シウンやスホに暴力を振るう。シン・スンホは『D.P.』の悪役演技で爪痕をしっかり残しているが、本作では、恵まれない環境の中で苦しみや葛藤を抱えるソクテをカッコよく演じている。
本作は、主人公シウンの成長物語ともいえる。最初は頭脳戦で戦っていた優等生シウンが、スホとの出会いを通じて肉弾戦でも戦えるようになっていくさまは、『週刊少年ジャンプ』の漫画の主人公のようだ。RPGゲームでボスを倒してもまた次のボスが現れるように、暴力が繰り返され激しさが増すアクションシーンには、「どうなってしまうのか!?」とハラハラドキドキして目が離せなくなる。ある時は「シウン、スホ、負けないで!」と熱く応援したくなり、またある時はその凄惨な暴力に心がギュッと痛くなる。肝が冷えるというように、お腹のあたりが冷たくなってくるほどの残酷さだ。
『弱いヒーロー』が、ここまで多くの人の心を掴むのは、ストーリーの面白さと派手なアクションに加えて、人物描写がずば抜けて巧みなところだ。一人ぼっちで弱い優等生が、束になって襲いかかってくる不良グループにひとりで立ち向かい、友を得てさらに強くなっていくという感情移入しまくる物語。そのうえ、彼らが抱える境遇や、心情の変化、葛藤、闇墜ちしていくプロセスを丁寧に描いている。

2022年に初めて本作を観たときは、まるで応援団のようにシウンを応援し、少年漫画のヒーローのようなスホ(彼は本作で抜群の人気を誇るキャラクターだ)が大好きになった。そして次々に登場する悪役たちの中でも、弱くて卑怯なラスボスに猛然と腹が立った。このラスボスが誰なのかはぜひ本作を観て確かめてもらいたい。しかし、時が経過して再度観返してみると、ラスボスの悲しすぎる境遇と、歪んでしまった彼がとった選択に同情を禁じ得なかった。スホが放った「人のせいにするな」という言葉は、まさにその通りだ。境遇は変えられないが、環境は変えられる。選択によって変えられたにもかかわらず、闇墜ちを選んでしまったことがリアルであった。
物語は全8話で構成されており、1話の分量が40分に満たない回もある。そのため、観始めたら先が気になり、一気に駆け抜けてしまう。内容もさることながら、役者陣のほとばしる熱い演技力に魅了されたからだ。パク・ジフンの6月の湿気のような空気を纏った演技に、陽キャのヒーローであるスホを演じたチェ・ヒョンウクの人好きする笑顔、虐められ、鬱屈した陰の演技を魅せてくれたホン・ギョンら若手俳優たちの燃えたぎる見事な芝居が、観ているこちらの没入力を高め、強い余韻を残す。『未成年裁判』で爪痕を残したイ・ヨンや、『恋するムービー』『埋もれた心』にも出演中のチャ・ウミンら、新進気鋭の若手俳優たちの功績も称えたい。

ラストでは本作の監督ユ・スミンの実弟であり、『愛の不時着』で一躍人気となったユ・スビンが、カメオ出演するという視聴者へのサプライズもあった。物語は、成長したシウンにさらなる暴力が降りかかるような暗示でシーズン2へ続く。シーズン2の予告には、リョウンやイ・ジュニョンが登場。弱いヒーローがその後どうなっていくのか、願わくばその後のスホやボムソクのことも知りたいと、続編をとても楽しみにしている。
参考
https://www.netflix.com/tudum/top10/tv-non-english
https://www.forbes.com/sites/joanmacdonald/2022/12/11/the-20-best-korean-dramas-of-2022/
■配信情報
『弱いヒーロー』
Netflixにて配信中
出演:パク・ジフン、チェ・ヒョンウク、ホン・ギョン
脚本:ユ・スミン、パク・ヒョヌ
原作:ソパス、キム・ジンソク
演出:ユ・スミン
クリエイティブディレクター:ハン・ジュニ






















