“目覚めの小五郎”の原点がここに 『名探偵コナン 水平線上の陰謀』カッコよすぎる毛利小五郎

『名探偵コナン』小五郎のカッコよさ振り返る

ラストにかけて名言の宝庫、カッコよすぎる毛利小五郎

 探偵団の活躍もすごいが、やはり本作の主役は小五郎だろう。テレビドラマ『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)で脚本家デビューを果たした古内一成が手がけていることもあって、全体的にダンディな雰囲気が漂うなか、とにかくクライマックスで小五郎が真犯人の秋吉美波子と対峙するシーンは名言の宝庫となっている。自首しようとした彼女が隙をついて殴ってきた拳をバシッと受け止めながら「俺は女と戦わねえ趣味だが……」と言う小五郎。秋吉から「どこぞの憎い女に似ていたから最初から目をつけられていたのか」と問われた際にはこんなセリフを返す。

「その逆だよ。あんたがあいつに似ていたから、犯人があんたじゃなきゃいいと思って無実の証拠を集めようとしていたからこうなっちまったんだよ」

 これは冒頭で知的なメガネ美女である秋吉の雰囲気が妻の妃英理のものと似ているため、美女に目がない小五郎の反応がイマイチだったことに対する伏線回収となっている。似ているから苦手なのではなく、似ているからこそ潔白であって欲しいという告白には、普段口下手な彼の妻に対する想いが透けて見える。おっちゃん、もうこの時点で何を言ってもカッコいいのだ。

『名探偵コナン 14番目の標的』が映す毛利一家の絆 小五郎&英理の不器用な夫婦愛にも注目

「おじさんがおばさんを撃ったのは事実でも、それがイコール真実とは限らねぇんじゃないか」  工藤新一の声を使った江戸川コナン…

 本作は犯人を先に明かしつつ、動機やその正体が徐々に描かれていく「半倒叙」と呼ばれるパターンを取っているだけでなく、ラストにもう1人の犯人(真犯人)が登場するなど『名探偵コナン』の中でも珍しいスタイルを取っている。そんな中、主人公のコナンがミスリードに引っかかり、小五郎の推理が的中。単独で犯人を追い詰める、という極めてレアなケースとなっている。劇場版『名探偵コナン 14番目の標的』では彼や毛利一家の過去が明かされるなど、“元刑事としての小五郎”に焦点が当てられていたのに対し、『水平線上の陰謀』は“探偵としての小五郎”を描く作品なのだ。

「真相を解き明かすのが、探偵の性なんでね」

 沈みゆく船の上で推理をすることに対して無意味といった秋吉に対して小五郎が言い放つセリフだ。彼は秋吉が使用する予定だった銃をすでに使用不可の状態にしたり、彼女だけでなく事件の発端とも言える船長の海藤渡に対してもキツく言及したり、本作ではとにかく有能である。

 他にも物語の序盤、八代延太郎の娘である51歳の貴江の美脚を褒めるシーンにも注目したい。小五郎は普段から自分のファンだと言って近づく女子大生にデレデレしたり、22歳のアイドル・小野ヨーコに首ったけだったりと若い女の子に夢中な様子が多く描かれてきた。しかし、ここで38歳の彼が51歳の年上女性に対してもデレデレすることが明示されたことも良いディテールのように思える。そして園子が霊安室で監禁されていたことにおいても、「誰がこんな悪戯を」と言った乗組員に対し「いたずらじゃない、れっきとした殺人未遂だ」と毅然とした態度で言い放つシーンでも、元刑事として、そしてモラルある人間として描かれている。普段はちゃらんぽらんな側面が強調されてしまっているが、アニメ回でも時々このようにまともなことを言う役割を担っていて、物語における“大人”の立ち位置に彼がいることを、再確認させられるのだ。

 そんな小五郎に再び焦点が当てられる劇場版最新作『名探偵コナン 隻眼の残像』。警視庁時代に彼と仲の良かった同僚の刑事が登場し、事件に巻き込まれていく。長野県警組の活躍と共に、再び覚醒状態の“目覚めの小五郎”を堪能できるかもしれない。

■放送情報
劇場版『名探偵コナン 水平線上の陰謀(ストラテジー)』
日本テレビ系にて、4月11日(金)21:00〜22:54放送
原作:青山剛昌『名探偵コナン』(小学館『週刊少年サンデー』連載中)
監督:山本泰一郎
脚本:古内一成
音楽:大野克夫
声の出演:高山みなみ、神谷明、山崎和佳奈、山口勝平、緒方賢一、林原めぐみ
©2005 青山剛昌/小学館・読売テレビ・日本テレビ・小学館プロダクション・東宝・TMS

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