高橋文哉が『少年と犬』で表現した“どうしようもない男”の愛嬌 犬っぽさとの不思議な共鳴

高橋文哉の演技に覗く犬っぽさ その奇妙な愛嬌
『仮面ライダーゼロワン』(テレビ朝日系)での主演を皮切りに多くのドラマに出演、バラエティ番組やラジオパーソナリティなどでも活躍している高橋文哉。西野七瀬とW主演を務めた『少年と犬』でも原作から大きく役割の拡張された人物を形にしてみせる演技が印象的だ。
本作で彼が演じる中垣和正の「犬っぽさ」は何に起因するのか。彼の演技の真髄に迫ってみようと思う。
東日本大震災から半年後の仙台。職を失い盗品の配達で生計を立てていた青年・中垣和正は1頭の野良犬を拾う。それからは不思議と幸運が続き、「多聞(たもん)」と名札のついたそのシェパードは護り神のようだった。だが、「これが最後」と窃盗団の運び役を引き受けた彼は事件に巻き込まれ、多聞も姿を消してしまい……。

監督の瀬々敬久をはじめとした『ラーゲリより愛を込めて』の製作チームが再結集、馳星周の連作短編小説を映画化した『少年と犬』。原作との違いとして短編の1つ「男と犬」の主役だった中垣和正が全体のキーパーソンになっている点が挙げられるが、率直に言えば彼はあまり好感の持てる人間ではない。
幼少時に抱いた夢は早々に諦める根性なしで、困窮のせいとはいえ震災後は犯罪に加担。被災者から財産を奪ったことを知った姉からは「人間じゃない」と非難される。確かに彼は父の遺言のようなまっとうな人生を歩めているとは言いがたい。冒頭で呼ばれるとおり「どうしようもない奴」だ。
しかし、山中で多聞を拾ったもう1人のキーパーソン・須貝美羽(西野七瀬)の前に姿を現してからの彼の印象はいささか異なっている。和正は多聞が病気と聞けば美羽の車に勝手に乗り込み、車中で好きな歌が流れば大声で歌うなど不躾な行動を繰り返すのだが、同時にその不躾さで彼女を救いもした。結婚式で美羽が親族から嫌われていると知った彼はステージに乱入して歌いだし、周囲を当惑させながらも彼女をデュエットに誘い出したのだ。孤立していた彼女にとってこれは痛快な、久しぶりに他人に心を開けた瞬間であった。以後、和正は美羽の心を癒やしていき、どこかを目指しているらしい多聞を彼女に代わって送り届けようとするほどの献身を見せるようになっていく。彼の心には動物じみた誠実さが眠っていたのである。

和正は突拍子もないことばかりするが、時にはそのおかげで誰かを助けることもある。それは例えばペットの犬の微笑ましい行動が場の空気を変えてしまうのと同じであり、「人間じゃない」和正の不器用さはここでは愛すべき「犬っぽさ」として現れている。劇中では金貸しから美羽をかばう場面もあるが、さしずめこれはシェパードと闘犬用に作られたピットブル種の戦い(金貸しを演じる一ノ瀬ワタルは元キックボクサーだ)とでも言えるだろうか。
再登場した和正は様々な形で美羽を助けるが、彼が善行をなせるのは多聞のおかげだ。結婚式に居合わせたのは多聞を預かる名目があったからだし、金貸しに立ち向かう勇気を持てたのは美羽が多聞を大切に思う仲間だったため。多聞が劇中で例えられるガーディアン・エンジェル(守護天使)は人の心を良き方向に導くというが、「犬っぽい」和正の美点を引き出す多聞はまさに彼の護り神なのである。




















