レオス・カラックスと黒沢清が対談 ゴダールからの影響や“映画の未来”を語り合う

そして観客からのQ&Aコーナーに。「先ほど“『ホーリー・モーターズ』を作る際に怒りが溜まっていた”と言っていましたが、最近の作品を観ると怒りではないものも入っているように感じる。それはなんでしょうか?」との質問が寄せられると、「年を取ってきた影響があるかもしれません。人生の残り時間が少ないということもあると思います」と回答したカラックス。「リズムが変わってきたのかわからないんですが、若い頃に観ていた映画でも、今は好きではなくなってしまったものが結構あるんです。また、若い頃と比べて世界との関わりも変わってきていると思います。独り身のときであれば、なんでもできるわけです。明日死んでもいいわけだし、戦争に行ってもいい。人生を全く違うものに変えることもできます。何も考えにず全てを忘れて、映画のためだけに3年を費やすということもできますね。ですが、子供ができるとまた違ってきます。自分がこの世を去ったとしても、自分の娘はこの世界で生きていかなければいけない。世界というのはそれほど重いことなんです。質問の答えになっているかは分かりませんが、今思ったのはそういうことです」と、改めて子どもができたことで変化があったことを明かした。
また、別の観客からはジャン=リュック・ゴダールから受けた影響についての質問も。黒沢は「ジャン=リュック・ゴダールと言ってもいろんな時期のゴダールがある。いろんな時期にいろんな影響は受けていることは間違いありません。ただ、明らかに影響を受けているんだなと映画を作るたびに思うのは、編集をするときです。あるカットとあるカットを繋げようとするとき、実際は繋がっていないということをすごく自覚しながら繋げていくんです。絶対繋がっていないものを繋げているというのが編集なんだなと。全く違うものがくっつく。それが積み重なってひとつの映画になるということを意識します。それはゴダールの作品を観たからだと自覚します」と編集においてゴダールから多大な影響を受けたという。

一方のカラックスは「私が映画を撮り始めたのは1970年代の終わりの頃ですが、当時、映画というものは、人々の人生にとってもっと重要なものでした。ですが、今はあまり重要なものではなくなってしまいました。変わってくれるといいとは思っていますが……。なぜ映画が重要なものだったのか、それはゴダールがそうしていたということがあると思います。彼は映画においていろんな波を作ってきました。そうやって映画の大切さを自ら体現していたんだと思います。また、清さんが言ったように、映画は編集で綺麗に繋げるものではない。急にカットが変わったり暴力的なところさえある。ゴダールはそういうことを教えてくれたと思います」とも。さらに、「私は20世紀に生まれましたが、20世紀から21世紀にかけての時の流れには、かなり奇妙なものがあると思います。ゴダールもその奇妙な時の流れを掴んでいたように思います。今回私が作った『IT'S NOT ME イッツ・ノット・ミー』は、初めて自分1人で編集した作品です。その編集中に、ゴダールは自ら命を絶つ決断をしました。その事実に、この映画自体もものすごく影響を受けていると思います」と、『IT'S NOT ME イッツ・ノット・ミー』もゴダールの影響下にあることを明かした。
最後にカラックスは映画の未来について以下のように語った。
「私は映画作りということに関して悲観的になっています。映画は世代によって作り変えられてきました。一方で世界では全てのことが変わっていっています。そういう意味では非常に大変だと思います。先ほども言いましたが、映画は以前よりも重要でなくなってきています。それは映画だけに限らず、本を読むことであったり、いろんなことが重要ではなくなってきています。先日鎌倉に行ったときに小津安二郎のお墓を訪れたんです。お墓にたくさんのお酒が供えられていたんですが、その中に「無」という文字がありました。これは私が17歳くらいのときに知ったことですが、小津は『2つの視線の間に目を洗う』ということを言っていました。今はそういうことができない時代だと思います。常に目を開けっぱなしでなければいけない。そうすると見えなくなってしまう。これは大きな問題だと思います。映画が新しくなるかどうかについて、私はあまり心配していません。私が心配しているのは、人々が物を見ることができなくなることなんです」
それ受け黒沢は以下のように語り、2人の濃密な対談を締め括った。
「レオスの口から小津の名前が出るのは軽い驚きと喜びがあります。やはり映画の価値というのはより下がりつつあるのかもしれません。でもたかが100数十年しか経ってない芸術ですから、今後どうなるかわかりません。一方にゴダールがいて、一方に小津がいる。そう考えただけで、映画ってすごいなと単純に思いました。その真ん中にレオスがいるのかもしれませんね」






















