『おむすび』は“大変な時代”の朝ドラ 失われ続けた30年と向き合った物語の最後の答えは?

『おむすび』は“大変な時代”の朝ドラに

 『おむすび』は、公式のキャッチコピーでは「平成元年生まれのヒロインが、栄養士として、人の心と未来を結んでいく“平成青春グラフィティ”」である。平成がいつの間にか終わって、令和になっている。主人公の結が幼い頃、阪神・淡路大震災があって、生活がすべてゼロベースになり、糸島でやり直した。なんとか再生してきたところで、東日本大震災が起こった。そしてコロナ禍。

 平成30年は災害でこれまでの生活や価値観が失われ続けた30年なのだ。経済的にも失われて、若者たちの暮らしに不安が募る。詩のように家族から離れて、荒んだ生活を余儀なくされる未成年も増えているのだろう。愛子の時代は、家自体はそれほど貧しくない、一般家庭の子が不良化したり援交したりする事象が物語化されていたが、近年は、何かに飽き足りないとか不満があって、という理由からではなく、満足に生活ができない状態の未成年が増えているようだ。詩は、家族も家もお金もなく、生きる意味を見いだせなくなっている。2024年の民放のドラマ『新宿野戦病院』(フジテレビ系)では新宿歌舞伎町に集う少女を描いていたし、ちょうど最近、NHKでは第48回創作ドラマ大賞『明日、輝く』で万引きする少女にコンビニで働く主人公がプリンを差し出していた。『おむすび』では、歩に服をもらった詩がすみませんと言うと、こういうときは「ありがとう」と言うのだと歩に言われる。なんでも「すみません」と自分を卑下するのではなく、「ありがとう」とお礼を言う。これこそが自尊心を高めることになる。大事なのは承認欲求ではなく自尊心を高めることなのだと思うのだ。困っている人に何かと差し出すとキリがなく、歩たちが詩にだけ心を砕くことがいいのかはわからない。

 他者を安易に「かわいそう」と考えるのは上から目線だという考えが広まっている昨今ではあるが、かわいそうな人は実際にいるし、目の前の困った人に手を差し伸べることは大事だろう。

 これまでの朝ドラは、辛いことがあっても未来に希望を持って生きていく。きっとあしたは晴れである、という光を感じさせる作品が多かった。ところが、『おむすび』は震災、震災、コロナ禍とちっとも世の中が明るくならない。どんどん状況は追い込まれている。容易に、明日は晴れだとか、つらいときには笑えばいいとか、メッセージを描けなくなっているように感じる。「美味しいものを食べれば悲しいことが少し忘れられる」を信条にしてきた結さえ、詩に、食べても悲しいことは忘れられないと否定され、そんなことはわかっているけれど……と困惑するのだ。大変な時代になったものである。この大変な時代の主人公たちはどうなるのか、最終週にどんな答えが提示されるのか。残り1週を見守りたい。

 花は、詩から歌が好きと聞いたとき、速攻、歌手になればいいと言った。発想が単純すぎると否定するのは容易いことだ。でも、歌が好きでも、いろんな事情を考えてはなから諦めるのではなく、まず、やってみる。自分にリミッターをかけないことも自尊心を高めることだろう。そういう意味では花のシンプルで明るい発想が貴重に思えてくるのである。

■放送情報
連続テレビ小説『おむすび』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:橋本環奈、佐野勇斗、仲里依紗、北村有起哉、麻生久美子ほか
語り:リリー・フランキー
主題歌:B'z「イルミネーション」
脚本:根本ノンジ
制作統括:宇佐川隆史、真鍋斎
プロデューサー:管原浩
写真提供=NHK

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