『おむすび』麻生久美子が見せた圧巻の芝居 “ドラマの必然性”はらむ愛子の糸島帰還

『おむすび』(NHK総合)第119話では、糸島に移る愛子(麻生久美子)の決意が描かれた。

愛子は糸島にいた。野菜を収穫しながら佳代(宮崎美子)に糸島を離れない理由をたずねる。「神戸は好いとうよ。みんなと一緒に暮らしたい」と話す佳代は、どうしても糸島にいたいと話す。生まれ故郷ということもあるが、それよりも大事なのは糸島でやりたいことがあるからだった。
「作物ば育てよったらね、毎日新しい発見があって、やればやるほどやりたいことが出てくるっちゃんねえ」
第24週は2つのプロットで構成される。一つは、身寄りのない少女、田原詩(大島美優)と結(橋本環奈)の関わりである。心を閉ざす詩に結や花(新津ちせ)がはたらきかけることで、少しずつ心を開いていく。もう一つが、愛子の糸島への帰還だ。聖人(北村有起哉)の病気もあって一緒に暮らしたい愛子は、どさくさに紛れて聖人に移住を提案するも不発に終わる。あらためて佳代の気持ちをたしかめに糸島へやって来た。

自然を相手にする仕事の奥深さを佳代は語っていた。端的に農業にハマっているとも言えるが、佳代にとって農業はやりたいことであり、生まれ育った場所で自身のライフワークを見つけた充足感が漂っていた。
朝ドラでよくある構成は、地方で育ったヒロインが大都市(東京・大阪)へ出て、そこで新しい生活を始めるというものである。そのバリエーションとして、ドラマ後半で実家のある地方へ戻るというパターンがあり、現代を舞台にした作品で多い。『おむすび』は糸島で育った結が大阪へ移る物語だが、神戸で生まれた結が震災をきっかけに糸島へ移り、阪神エリアへ帰還する物語でもある。その点で従来の型を踏襲している。
その反面、ローカルな魅力が薄まるデメリットもある。そこで愛子の糸島移住となる。ヒロインの役割を周囲のキャラクターが分散して受け持つのが『おむすび』である。愛子の糸島移住にはドラマ的な必然性があった。佳代が永吉(松平健)の死後も糸島に住み続けるのは、故人への愛惜や地元への執着からではなく、佳代自身が能動的に決めたことだった。愛子に目を向けると、一人で暮らす佳代への心配やイチゴ栽培の関心もあるが、決定的だったのは母と娘の絆である。