『おつかれさま』“愛”と“人生”の軌跡に号泣 IUとパク・ボゴムの名演に感じた“名作の予感”

最近の韓国ドラマあるあるの「美しいお花畑でのキス」演出。いがぐり頭にジャージ姿のパク・ボゴムが瞬間爆発するのがなんともかわいい。学生服姿のIUとふたりの初々しさが爆発するファーストキスの演出は、セリフも相まってなんとも青春な初キスシーンとなっている。「キス」することにこなれていない、「顎クイ」や「壁ドン」「床ドン」のない「青春」が爆発するキスは、人生でたった一度きりのジタバタ感がたっぷりの甘酸っぱさでとってもいい! 初めてのふたりが、「鼻の下キス」なのも身をよじるほどかわいい……!
純情で朴訥なグァンシクが一途に恋を貫く姿はパク・ボゴムの十八番で、シンクロ率100%と思える演技力。『恋のスケッチ~応答せよ1988~』のテクも、天才囲碁棋士でありつつ、幼なじみの女性を一途に想い続ける純情な青年だった。パク・ボゴムは、本人の素顔も“美談に溢れる天使”と評されるが、“素朴で、純粋無垢で、一途にひとりの女性を想い続けながら、時にドキっとさせる男”を演じるのが抜群に上手い。子犬のようなキラキラした瞳と、野性味あふれる狼の顔を併せ持ち、迷いのない思い切りの強い行動に胸キュンしてしまう。
エスンは、自分の置かれた環境から抜け出すため、グァンシクと釜山に家出をするも、済州島に連れ戻されてしまう。家出の処罰を受けて停学となるグァンシクと退学になるエスン。エスンと結婚することを夢見るグァンシクだが、中卒のエスンを認めないグァンシクの家族たち。グァンシクの母ゲオク(オ・ミンエ)は、エスンにグァンシクのために身を引くように告げる。
エスンは、裕福な漁船の船長サンギル(チェ・テフン)の後妻として、彼との結婚を決めてグァンシクにその旨を伝える。ショックを受けたグァンシクは、エスンから自分の前から姿を消してほしいと言われ、島から出て行くことを決意する。ふたりのファーストキスの場所である美しい菜の花畑が、今度は非情な別れのシーンとなってしまい、パク・ボゴムの悲しみの演技に辛くなる。
傷心のグァンシクは、船で出航するも、エスンは自分の気持ちを抑えられずに港へ走り出す。ここから、「どうなってしまうのだろう」のドキドキハラハラ展開が訪れる。エスンが港に着いた時には、グァンシクを乗せた船は沖へと航行していた。(あぁ、、間に合わなかったか、、)と心が沈むと同時に、不安を誘う演出に嫌な予感がしてくる。切れるカバンの紐、グァンシクに詰め寄る「エスンがいないと死ぬのか?」の後の涙、「あの時、走らなければ、あの時、走りさえしなければ」と号泣するエスン、海に浮かぶ靴にジャージ、(えええ! やめて! お願い助かって!!)とハラハラと緊迫させる演出に感情ジェットコースターが頂点に向かって上がっていく。
グァンシクの渾身の泳ぐ姿に、「がんばれ!」と心の応援団が叫ぶ。数々の韓国ドラマの非情な展開に、どっちに転がるのかとハラハラする。「まさかこのままパク・ボゴム死んじゃわないよね!?」と感情ジェットコースターが頂上に着いたとき、無事に岸壁に辿り着いたグァンシクとエスンが強く抱きしめ合い涙する。当然一緒に涙が溢れて涙の川を渡るレールとともに、ジェットコースターは安心の急降下をしてくれた。
第二次世界大戦後6年目となる1951年5月16日に誕生したエスン(5月16日はIUの実際の誕生日)。この時代は、韓国も日本も疲弊し、一部を除き大半の人が貧乏な時代であった。特に男尊女卑社会の中で女性の地位は低く、「家」に尽くして一生を終えた人も多いのだろう。激動の時代を描く本作は、服装の変化や、文化の移り変わりも興味深く、朝ドラや大河ドラマを観ているようだ。韓国の伝統的な衣装であるチマチョゴリを身につけた女性たちのもとに、洋服が入って来るところや、ミニスカートが新聞に掲載されたりと西洋の文化が流入して人々の意識と生活が変わっていくさまが見応えがある。
上の世代が通ってきた過酷な人生に、胸が痛くなり、男尊女卑の女性蔑視に眉を顰め、意地悪な姑に怒り、不遇な境遇に涙しながらも、エスンとグァンシクが見つける小さな幸せを共に喜んだ。
中でも、豆ごはんの場面は重要な演出だ。家族内での順位があり、姑と男性たちの食卓と、エスンら女性の食卓は別だ。男性陣には、豪華でたっぷりのおかずで、女性たちのおかずは見劣りする。豆ご飯の豆は、男性たちにはたっぷりとよそおわれ、女性たちのご飯には豆が少ないのだ(のちにグァンシクが、成人した自分の娘にえんどう豆をたっぷりと買ってくるのがグァンシクの優しさを表しており、微笑ましい)。
済州島を舞台にしたヒューマンドラマとしてヒットした『私たちのブルース』や『サムダルリへようこそ』は、記憶に新しい。本作も、済州島を舞台にした名作として、時代の移り変わりの中で懸命に逞しく生きる人々を描き、4話ずつ配信することで毎週映画を観たような満足感を感じることだろう。強く引き込まれるストーリーと、全編に渡るIUとパク・ボゴムの演技力の高さが光る。IUの2役の演じ分けにパク・ボゴムの朴訥さと、さらに脇を固める名優たちの演技に名作の予感を感じさせられた。終了後には、著者を含める多くの人の“人生ドラマ”が更新されるのではないだろうか。次週が待ち遠しい。
参照
https://www.netflix.com/tudum/top10/tv-non-english
https://www.net-frx.com/p/netflix-popular.html
■配信情報
『おつかれさま』
Netflixにて独占配信中
出演:IU、パク・ボゴム、ムン・ソリ、パク・ヘジュン
演出:キム・ウォンソク
脚本:イム・サンチュン

























