山田太一の言葉はいまを生きる若者も救う “本当”が凝縮された『早春スケッチブック』

現代の若者にも刺さる『早春スケッチブック』

 そうした劇薬を生み出せるのは、山田太一という書き手が、やはり人間の本質を描くことに強い執着があるからではないだろうか。その薬が効く人間と効かない人間を浮かび上がらせることで、両者を一度断絶させて、思いっきり衝突させる。世代や、性別や、生きている環境などという境を超えて議論させようとする。書き手がどちらかに肩入れすることはない。むしろ自分の考えが本当に本心で正しいものなのかさえも疑っているように思える。そうしたところに何か、本当のことを書こうとしなければ何も変えられないのではないかという問いかけを感じるのだ。そこにSNSの意見に左右されがちな社会で生きている世代としてはハッとさせられるものがある。上面ではいけない、そんな気持ちにさせられる。

 KAWADE夢ムックには『テレビから聴こえたアフォリズム』という山田太一総特集回がある。山田の思考や言葉の魅力がわかりやすくまとめられた作品で、この本を編集したのが清田麻衣子だ。同ムックシリーズの編集を依頼された際、清田は「やれるんだったら絶対山田太一さんです」と言ったという。「埋もれていい作品と、埋もれちゃいけない作品があって。山田さんの場合それは絶対に後者」と語る。

 だからこそその魅力はかなり複雑だ。古沢良太は「すごくドライでロジカル」と語り、大根仁は「必ず笑える」「落語と山田太一ドラマっていうのは共通するものがある」と語り、水橋文美江は「あらゆる感情を逆撫でされたりとか。自分にはない考え方を見せてくれる 」とも語る。どれもファンにはよくわかるが、山田太一作品にまだふれていない人が番組を観れば、一体どんなものなのかと思うかもしれない。

 しかし前述したように30歳になる筆者世代でさえ、山田太一ドラマはもう身近ではない。筆者が山田のドラマを初めて観たのも、実は20代後半になってからのことだ。テレビ離れが進んでいるという下の世代になればもっとハードルが高いものになっているだろう。

 けれどもそうした若い世代にも、山田太一の言葉を求めている人はきっとたくさんいる。ソーシャルメディア時代に生きる私たちは、悲しみが増幅するだけの対立を日々いたるところで目の当たりにして、自由に言葉を選ぶことすら躊躇している。もはやわかりあうことを諦めてしまいたくなるような、そんな社会の中にいるのだから。

 日本映画専門チャンネルでは、3月13日・14日に『早春スケッチブック』も放送される。山﨑努が「自らの代表作」ともいう本作だが、残念ながらストリーミングサービスでは配信されていない。どうかこうした機会に、何かしらに息苦しさを感じている人のもとに山田太一の言葉が届いたらと願う。

■放送情報
【没後1年を偲んで 名優が紡ぐ山田太一の言葉】

『山田太一特別番組 魂に一ワットの光を~2025年・山田太一を語り継ぐ~』
日本映画専門チャンネルにて、3月14日(金)22:00〜ほか放送
出演:大根仁、清田麻衣子、古沢良太、西川美和、水橋文美江、山﨑努(五十音順)

『早春スケッチブック』
日本映画専門チャンネルにて、3月13日(木)・14日(金)連日17:00〜放送
脚本:山田太一
出演:岩下志麻、河原崎長一郎、鶴見辰吾、二階堂千寿、樋口可南子、山﨑努
1983年
©フジテレビジョン

公式サイト:https://www.nihon-eiga.com/osusume/yamada-taichi/

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