『おむすび』が第1話から解き放っていた“朝ドラヒロイン” 翔也はエポックメイキングな夫に

『おむすび』が第1話から試みていたもの

 平成まっただなかからはじまって令和に入った『おむすび』は昭和を描いた朝ドラとは違う。昭和の朝ドラだったら、おそらく菜摘(田畑志真)のようなキャラクターがヒロインだっただろう。昔ながらの商店街の惣菜店の娘に生まれ、阪神・淡路大震災をきっかけに親がベーカリーの職種替え。東日本大震災のときは決死の顔をしてボランティアに行く正義感を持っている。店の手伝いをしながら、就職してコンビニのメニュー開発を行い、家のパンのメニューなども考えたりする。

 そんな彼女が第22週で、入社7年、スイーツ開発からお弁当開発部署に配属になり、苦労を味わう。スイーツ部門のころと比べて企画が通らない。部長によく思われていないのではないかと疑心暗鬼になり、結に協力を仰ぎ、高齢者のためのお弁当の開発に取り組む。理由は、母・美佐江(キムラ緑子)の元気がなくなり、ご飯を作らなくなったからだった。震災や土地開発を乗り越えてきたさくら通り商店街の人々も高齢化が進み、高齢者用の弁当開発は必至である。だが部長(隈本晃俊)は重しのように菜摘の前に立ちふさがって動かない。菜摘は結の力を借りて、懸命に挑戦し続ける。というエピソードは極めて朝ドラっぽい。ヒロインが新入社員の頃にありそうなエピソードである。ところが『おむすび』ではそれはヒロインの幼なじみのエピソードで、ヒロインはすでに身につけた知見で手助けする役割なのだ。

 夫婦の役割の逆転のみならず、ヒロインあるあるもあえて選択しない。振り返れば、第1話で結は人助けのために海に飛び込み「私は朝ドラヒロインか」とメタなセリフを吐いていたが、あのとき、結はこれまでの朝ドラ的なものを海に捨てていたのであろう。朝ドラでヒロインが水に飛び込むときは、自分を縛っていたものーー時代が彼女に課してきた暗黙のルールから解き放たれる儀式であった。米田結は実は第1話で、これまでの朝ドラと朝ドラヒロインから解き放たれる宣言をしていたのである。

 おやじギャルといえば、もうひとり歩(仲里依紗)がいる。仲里依紗はまさに「おやじギャル」の代名詞となった中尊寺ゆつこの漫画キャラのようだ。歩は結婚しないで、仲間たちとつるみ、ギャルファッションの世界で独自のコミュニティのルールで楽しく生きている。

 さて。改めて、翔也だが、熱血野球少年という、昭和のマッチョな男子キャラとして登場しながら、ケガがきっかけとはいえ、じつに見事に令和の理想の男性像にアップデートしている。あまり主張せず、ちょっとおバカキャラに徹しているため、そう見えにくいけれど、朝ドラ男性史のエポックメイキングな存在としてもっと注目すべき人物である。

■放送情報
連続テレビ小説『おむすび』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:橋本環奈、佐野勇斗、仲里依紗、北村有起哉、麻生久美子ほか
語り:リリー・フランキー
主題歌:B'z「イルミネーション」
脚本:根本ノンジ
制作統括:宇佐川隆史、真鍋斎
プロデューサー:管原浩
写真提供=NHK

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