奈緒×松田龍平の名コンビにまた会いたい! 『東京サラダボウル』最終回が投げかけたもの

『東京サラダボウル』が投げかけたメッセージ

 だが、それが掘り起こされるきっかけとなったのも織田の存在だ。「人はたとえ目の前からいなくなったとしても、残された全ての人の中で“かけら”として残っていく」と鴻田が言うように、織田がこの世から姿を消しても、彼の愛情は今もなお有木野を生かし続けている。織田から最後にもらった言葉があったから、有木野は鴻田が差し伸べてくれた手を取ることができた。織田は「この先、どこにいても、何をしていても、俺が必ずお前を守ってやるよ」という約束を果たしたのである。

 そして、その結果、映像のデータが見つかったことで、阿川はようやく罪を認める覚悟ができたのだろう。最終的に阿川はシウに首を切り裂かれる。阿川の自供書を読み、急いで現場に駆けつけた鴻田の応急処置により一命は取り留めたものの、意識が戻るかどうかは不明のままだ。その枕元で「あなたにはまだやることがある」と鴻田は語りかける。鴻田が阿川を憎みきれないのは、他人事とは思えないからなのかもしれない。日本という国で困難を抱える外国人居住者を助けたいという思いのもと、彼らを深く理解しようとしてきた姿勢は同じだが、阿川は一線を超えた。

 明暗を分けたのは、彼らを大勢の中のひとりではなく、大切な“個”として見ていたか、どうかではないだろうか。阿川もはじめは鴻田と同じだったが、より大きな目的のためなら“個”を犠牲にすることにいつしか躊躇わなくなっていったのだろう。だから、自己保身で織田を傷つけることも厭わなかった。

 一人ひとりに人生があること。誰かを大切に思い、思われる存在であること。様々な属性を持った人々が共生していくためには、それをまず認識するところから始める必要がある。自分と同じ人間として相手を尊重し、何か困っていたら、できるだけ手を差し伸べたい。少なくとも、鴻田と有木野はこぼれ落ちそうな人々を掬い上げていくのだろう。どれだけ切りがなくても、決して諦めずに。

「無理だとしても、どこに何人いようが、探し続けるだけだ。俺“たち”はそう決めた」

 上司の飯山(皆川猿時)とともに所轄から本庁の国際犯罪対策課へ異動した鴻田は晴れて有木野と同じ職場になった。こぼれカスヒーローズとしての活動は、ここからが本始動とも言える。ボランティアとは、多国籍の集団からなる犯罪組織で、シウはそのうちの一人だった。まだその実態は明らかになっていない。出勤中の2人の後ろをシウのような白いパーカーの男が歩いているラストシーンは、この物語が続くことの暗示だろうか。できるならどうか、ネオン街を走る2人にまた会いたい。

参照
https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00047.html

■放送・配信情報
ドラマ10『東京サラダボウル』(全9回)
再放送:NHK総合にて、毎週木曜24:35〜25:20放送
NHKプラス、NHKオンデマンドにて配信
出演:奈緒、松田龍平、中村蒼、武田玲奈、中川大輔、絃瀬聡一、ノムラフッソ、関口メンディー、朝井大智、張翰、許莉廷、喬湲媛、Nguyen Truong Khang、阿部進之介、平原テツ、イモトアヤコ、皆川猿時、三上博史
原作:黒丸『東京サラダボウルー国際捜査事件簿―』
脚本:金沢知樹
音楽:王舟
メインテーマ曲:Balming Tiger
メインビジュアル・デザイン:大島依提亜
メインビジュアル・スチール撮影:垂水佳菜
演出:津田温子(NHKエンタープライズ)、川井隼人、水元泰嗣
制作統括:家冨未央(NHKエンタープライズ)、磯智明(NHK)
プロデューサー:中川聡子
写真提供=NHK

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