北村有起哉&大鶴義丹の背後に見えた偉大なる父 “呪いが解けない”『おむすび』らしさ

“呪いが解けない”『おむすび』らしさ

 米田家の呪いにまつわる『おむすび』(NHK総合)第21週は、ずばり「米田家の呪い」。聖人(北村有起哉)の胃がん手術が無事成功すると、糸島から永吉(松平健)と佳代(宮崎美子)がやって来る。せっかく家族が集まったから、思い出の万博公園で太陽の党を見ようと永吉がひとり大騒ぎ。みんな休みを無理にして合わせてお弁当まで作ったものの、結(橋本環奈)が患者を優先してドタキャンしたため、聖人と永吉ふたりの珍道中(?)に。

 聖人と永吉には長い確執があった。いや、永吉は全然何も考えてないが、聖人は父が大学入学の資金を使い込んでしまったことを根に持っているのだ。それだけでなく、自由人過ぎる永吉に反発を抱いてきた。そのため聖人は趣味ももたず、仕事一筋、それも父の跡を継ぐのではなく、まったく関係ない職種・理容師を選んで神戸で独立したのだ。ほんとうは糸島のことが好きだが、父が嫌いだから糸島で暮らしたくないという複雑な想いを抱えてきた。

 「米田家の呪い」とは、たとえ自分が損をしても人助けを優先してしまうことではあるが、聖人と永吉が仲直りできないことが最大の呪いのような気がしないでもない。その呪いがついに解けるときが来た! 結は佳代から、これまで永吉がひた隠しにしてきた学費使い込みの真相を聞き出し、聖人は太陽の塔で、万博の頃の永吉を知っている向井(麻生祐未)に出会い、当時の永吉の話を聞く。永吉は万博で遊び呆けていたわけでなく、ちゃんと仕事をしていたし、当時起こった岐阜の洪水の被災者・小松原(大鶴義丹)に頼みこまれて、聖人の大学資金を貸していた。

 学費使い込みにはもっともな理由があったのである。こうして、長い間、こじれていた父と子の関係はほどけた。だが、その1カ月後、永吉が亡くなる。その通夜の場に次々現れる、著名人。山内惠介にラモス瑠偉。かつて永吉が、知り合いであると言っていた人たちだ。てっきりほらと思っていたら、本当だった。王、猪木、引田天功などからも贈り物が……。寓話的な展開は、これはこれで微笑ましく見られる。さらに、岐阜でお金を貸した小松原の息子(大鶴義丹・二役)がお金を返しに来た。ネットでは「大鶴の恩返し」というワードが飛び交っていた。こういうとき、一般視聴者のセンスの良さを感じてしまう。

 父の借金を50年越しに返そうとする小松原息子、あんなに必要だったお金をいまはもう必要ないと考える息子(聖人)。ふたりの息子の間に、それぞれの父が残したものを、自分たちなりにどう処理するか、その道筋が見えるようだった。父と子である事実は変わらない。愛されたのか、早いときに死別して愛を知らないままなのか、喧嘩ばかりしていたのか、似てるのか、似てないのか、影響されてるのかされてないのか、いろいろな関係性があると思うが、息子は息子で、こうして生きてきたし、これから、生きていく。

そして平成31年のいま、息子たちにも子どもがいる。彼らは子どもにとってどんな親だろう。好かれてるのか疎まれてるのか。子どもが心配か無関心か。聖人は、これまでドラマを観てきて、子煩悩であることはわかる。小松原息子は、一瞬出てきただけだが、実直そうで、きっとふたりの息子を大事に育てたのではないだろうか。わからないけれど。

 北村有起哉と大鶴義丹。ふたりの背後に偉大な父の姿が見える。北村有起哉の父は、朝ドラにも何度も出ていて、文学座という日本の新劇の劇団の代表格の看板俳優だった名優・北村和夫である。一方、大鶴義丹の父は、アングラ劇の怪優であり、テント芝居をやり続けた主宰者であり、芥川賞受賞者でもある優れた作家・唐十郎だ。大河ドラマにも何作も出た名優・緒形拳を父に持つ緒形直人と北村有起哉の共演も興味深かったが、緒形直人の役が父を引きずっている役ではなかった。それが、第105話では、父を引きずる息子同士が出会うエピソードで、北村有起哉と大鶴義丹がじつにハマって見えた。彼らがすてきに演じている姿に、次世代の時代なのだと突きつけられるような気持ちになった。この気持ち、20代、30代の視聴者にはなんのことやらわからないと思うが。

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