一般的な日本人の”リアル”とは何か 『雪子 a.k.a.』が描いた現代のヒップホップストーリー

リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替わりでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、町人よりも牛の数の方が多い北海道のど田舎で、全校生徒10人ちょっとの小学校に通っていた小野瀬が、“小学校の先生×ヒップホップ”を描く映画『雪子 a.k.a.』をプッシュします。
『雪子 a.k.a.』

ヒップホップは、そのリリック(もしくはその人物)が“リアル”なのか“フェイク”なのかを重要視するイメージがあるが、『8 mile』も『ストレイト・アウタ・コンプトン』も日本で普通に生まれ育った自分にとっては、まさしく別世界の、“リアル”じゃない物語だ。しかし自分を含め、『雪子 a.k.a.』に“リアル”を感じる日本人はたくさんいるのではないか。

本作の主人公は、29歳の小学校教師・雪子(山下リオ)。目立ったキャラクターの先生ではないが、優しくて細やかなことに気がつけて、その一方で、実はヒップホップが好きで、近所のサイファー(複数のラッパーたちが輪になって即興でラップをするヒップホップコミュニティ)に通うという面も。銃撃戦にもオーバードーズにも縁はなく、真っ当な仕事や優しい恋人に恵まれているが、受け持ちクラスの男子生徒が突然不登校になってしまったり、保護者から宿題内容についてクレームが入ったり、将来のイメージが見えなかったり、日々人知れずプレッシャーと戦っている。そんな生活の中で、雪子は「ラップをしている瞬間だけは自分の本音が出せる」と思っていたが、ある日突然参加することになった初のラップバトルでコテンパンにやられ、相手からも友人からも「雪子の言葉は本音じゃない」と突きつけられる……。