なぜウィンタースポーツを題材としたアニメは少ない? 『メダリスト』が示した“可能性”

『メダリスト』の映像表現が示した“可能性”

 その一方、現在のアニメ業界ではかつてと比べて技術革新が進んでおり、フィギュアスケートを表現するための下地が整いつつあるように思われる。具体的に言えば、3DCGを活用したアニメーション技術の進歩だ。

 ひと昔前の3DCGアニメは不自然な印象が付きまとっていたが、近年では手描きアニメのような質感のあるセルルックの3DCGアニメが多数制作されている。代表的なのは、2022年の劇場アニメ『THE FIRST SLAM DUNK』。ダイナミックに選手たちが動き回るバスケットボールの試合を、一切の違和感なしに描写していた。

 今期の『メダリスト』も、そうした3DCGアニメの進歩において捉えられるだろう。第1話冒頭では、主人公のライバルとして立ちはだかる狼嵜光の演技が披露されたが、ヌルヌルと動く身体はもちろん、速度を上げたときに細かくなびく髪など、3DCGならではの表現が多く見られた。

 そして同時に、繊細な表情の変化やメリハリのある動き、リンクの氷が削れて舞い散る表現など、手描きアニメ的な要素もてんこ盛りだ。すなわち同作のスケート描写は、手描き的な表現と3DCGらしい表現の“いいとこどり”になっているように見える。

 なみに同作のスケート描写は、元オリンピック日本代表でメダリストである鈴木明子が振り付けを担当しており、実際に演技する様子をモーションキャプチャーによって取り込んでいる。

【メダリスト】スケートリンク特別企画「鈴木明子さんスペシャル対談編」|2025年1月4日より放送開始

 また鈴木は、『メダリスト』公式チャンネルに投稿された対談動画で振り付け時の心構えについて言及。あらかじめ原作を読み込んだ上で、キャラクターごとの個性に即して演技を演じ分けているらしく、たとえば光を演じる際には「無敵」「敵がいない状態」「圧倒するというオーラをまとって出ていく」ことを意識していたという。

 リアルな演技のモーションキャプチャーと、最先端のセルルック3DCGアニメーションの融合により実現した、クオリティの高いスケートシーン。これはフィギュアスケートにかぎらず、スポーツものを描く際の1つの最適解と言えるかもしれない。

 なおセルルックの3DCGアニメといえば、2024年4月から放送された『ガールズバンドクライ』のような革命的な作品も生まれており、その技術にはまだまだ進化の余地が残されているものと思われる。

これまでは制作のハードルが高かったフィギュアスケートなどのウィンタースポーツアニメだが、『メダリスト』の成功や技術の進化を追い風として、さらなる可能性が追求されていくことを期待したい。

参照
※ https://www.youtube.com/watch?v=h4_rwQr61cQ

■放送情報
『メダリスト』
テレビ朝日系“NUMAnimation”枠にて、毎週土曜25:30~放送
各配信プラットフォームにて配信中
キャスト:春瀬なつみ(結束いのり役)、大塚剛央(明浦路司役)、市ノ瀬加那(狼嵜光役)、内田雄馬(夜鷹純役)、小市眞琴(鴗鳥理凰役)、坂泰斗(鴗鳥慎一郎役)、木野日菜(三家田涼佳役)、戸田めぐみ(那智鞠緒役)、小岩井ことり(大和絵馬役)、三宅貴大(蛇崩遊大役)、伊藤彩沙(鹿本すず役)、加藤英美里(高峰瞳役)
原作:つるまいかだ(講談社『アフタヌーン』連載)
監督:山本靖貴
シリーズ構成・脚本:花田十輝
キャラクターデザイン:亀山千夏
総作画監督:亀山千夏、伊藤陽祐
フィギュアスケート振付:鈴木明子
フィギュアスケート監督・3DCGディレクター:こうじ
3DCGビジュアルディレクター:戸田貴之
3DCGアニメーションスーパーバイザー:堀正太郎
3DCGプロデューサー:飯島哲
色彩設計:山上愛子
美術監督:中尾陽子
美術設定:比留間崇、小野寺里恵
撮影監督:米屋真一
編集:長坂智樹
音楽:林ゆうき
音響監督:今泉雄一
音響効果:小山健二
アニメーションプロデューサー:神戸幸輝
アニメーション制作:ENGI
©︎つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会
公式サイト:https://medalist-pr.com
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/medalist_PR

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