『薬屋のひとりごと』幾田りら「百花繚乱」の歌詞を考察 花の名前が謎を解く“カギ”に?

これまでもさまざまな伏線や考察で視聴者を盛り上げてきた、TVアニメ『薬屋のひとりごと』。過去さまざまな媒体の監督のインタビュー記事で、作品テーマを軸に全て緻密な計算で演出に意図を込めて作られていることが語られている。第2期のオープニング映像(以下、OP映像)においてもそれは健在であり、なんとも考察しがいのある映像に仕上がっている。
第2期のオープニング曲(以下、OP)として選ばれたのは、幾田りらによる「百花繚乱」。この言葉が意味するのは、様々な花が一斉に咲き誇る美しい光景だ。それは同時に、卓越した才能や輝かしい功績が重なり合って現れる様子をも意味する。そして、その華やかさゆえに、美しい女性たちが競い合うように咲き誇る姿を表現する際にも好んで用いられる言葉である。
キャラクターを象徴する花の名

この花にまつわるタイトルもまた、本作の謎を解く鍵そのものだ。冒頭の歌詞<ゆらゆらり はらはらり>が紡ぎ出す、舞い散る花びらの幻想的な情景。『薬屋のひとりごと』において、花のモチーフは始終、重要な意味を帯びて描かれてきた。第1期OPに緑黄色社会の「花になって」が選ばれたことも、サウンドトラックの楽曲の一部に花の名が冠されていることも、決して偶然ではない。
わかりやすい例で言うと、玉葉妃を象徴する花は「牡丹」、梨花妃を象徴する花が「桔梗」といったように後宮の四夫人に花のイメージがあることは第1期でも強調されていた。ちなみに第2期OPも映像の後半でそれぞれの妃と対応する花が描かれているが、ここには今期から登場する新キャラクターも追加されている。作品が進んだ後に、誰が何の花なのかを調べてみても面白いだろう。
数ある花の中でも、たびたび作品に登場するのが、やや素朴な印象を与える小さな黄色い花、猫猫を象徴する花「方喰(カタバミ)」だ。ちなみに、方喰の花言葉は「喜び」「輝く心」「あなたと共に」など、ポジティブなものが多い。第23話「鳳仙花と方喰」では猫猫出生のいきさつなども描かれており、「方喰」は猫猫を象徴する花として今回の第2期のOPにも登場している。今回は乱れ咲く方喰と合わせて、手のひらの中に収められた一輪が印象的に描かれている。
歌詞にリンクする猫猫の視点

「予想のできない展開へと飛び込んでいった先に、世界や景色がさらに広がっていく猫猫と、自分自身の経験をリンクさせて詩を書いた」と幾田本人が言っているとおり(※)、<花の街思い出す この空から ひょんな出来事から やってきたこの場所は遥か遠くにあった 煌びやかな舞台>と花街からやってきた猫猫の視点に重なる。
序盤の映像は『不思議の国のアリス』を彷彿とさせる画となっており、主人公のアリスが薬を飲むと大きくなったり小さくなったりするエピソードに準えるように、毒らしきものが飲み物に盛られている様子も。ワンダーランドへ飛び込むアリスが薬を飲んで体のサイズを変えたように、猫猫を後宮という異世界へ繋いでくれたのは、まさにこの毒(への耐性)ともいえよう。
<鮮やかな世界があるんだと知った あなたの無理難題に応えていく><その度にあっと言わせるような 奇想天外な答え合わせで辿り着いたその先に 新しい景色が待っているんだ>には、壬氏の無理難題に応え続けてきた道のりを、猫猫が確かな手応えとともに受け止めている様子が受け取れる。そして<離れては 寄り添って>という一節には、互いを思いながらも一定の距離を保ち続ける、猫猫と壬氏の曖昧な関係性が描き込まれているのだ。