『イカゲーム』シーズン2最速レビュー! 紛れもなく2024年を象徴する傑作ドラマシリーズに

『イカゲーム』S2は2024年を象徴するドラマだ

 12月26日に全世界同時配信された『イカゲーム』シーズン2を最速レビュー。この記事には物語に関する記述が含まれることを最初に述べておく。『イカゲーム』は2021年9月17日に配信開始されて以来、Netflix史上最も観られた番組であり、現在までに3億3000万視聴、視聴時間では28億時間を超えるという。(※)翌年2022年のプライムタイム・エミー賞で14部門ノミネート、作品賞、監督賞(ファン・ドンヒョク監督)、主演男優賞(イ・ジョンジェ)を含む6部門で非英語作品として初受賞という歴史を作った。これほどまでの大記録を抱える作品の新シーズンなのだから、懐疑的になるのが常だろう。12月初めに米ロサンゼルスで行われた『イカゲーム』シーズン2のプレミアで、ファン・ドンヒョク監督はこう断言した。「周りの全ての人は、『成功したのだから、ここで止めておくべき』と言いました。でも、シーズン2はこの栄光を超える出来だと思います」。シーズン2全7話を鑑賞した今、ファン・ドンヒュク監督の言葉に完全に同意する。シーズン1より深く複雑にテーマに切り込んだ『イカゲーム』シーズン2は、紛れもなく2024年を象徴するドラマシリーズだと言える。

 シーズン1は、6つのデスゲームを突破し456億ウォンを手にした456番ことソン・ギフン(イ・ジョンジェ)が、娘が住むアメリカ行きを取りやめるシーンで終わっていた。その直後から始まるシーズン2で、髪を赤く染めたギフンはゲームに戻る決断を明らかにする。ソウル中に捜査網を張りゲームの招待状を配るスーツの男(コン・ユ)を見つけ出すと、前回とは異なる目的を持ってゲームに参加する。一人でも多くの参加者の命を救うこと、そして黒幕を見つけ出し、この残虐なゲームを終わらせるために。

 ゲームの残虐さも、ポップなプロダクションデザインや音楽も相変わらずだが、世界中でセンセーションを起こしてから3年、世相の移り変わりと呼応するように変化が表れている。ピンクのジャンプスーツを着た兵士たちの背景が少しずつ描かれ、緑のジャージを着た456名の参加者の意識は3年間ですっかり変わってしまっている。前回の勝者であるギフンは彼なりの良心でゲームのコツを伝授し、参加者の過半数が賛同するとゲームを中止できる民主主義的ルールの適用を提案する。ゲームの展開と並行し、参加者が○と×で分かれ、さらなる軋轢が生まれる。このゲーム継続投票は選挙の比喩となり、分断と断絶を生む。ゲーム中断を選ぶと、それまでの賞金が参加者に等分に分配される。資本主義から共産主義への移り変わりを匂わせる。過半数が賛同する意見が必ずしも最善と言えるのか?といった民主主義に対する疑問も生じる。ゲームには2024年の世界が抱える問題がちりばめられている。

 物語の帰結上当然だが、シーズン1からはイ・ジョンジェと運営側のイ・ビョンホン、行方不明の兄(イ・ビョンホン)を探す弟役のウィ・ハジュンのみで、新キャストが多数参加している。世界的成功によって、ファン・ドンヒョク監督が求める韓国屈指の演技力を持つキャストを集めることが可能になり、その多くが韓国映画・ドラマファンにはお馴染みの名前だが、世界の視聴者に知られているかと言うと疑問が残る。ゲームという名の地獄から生還したギフンは顔つきも声もすっかり変化し、常に眉間に皺を寄せてニコリともしない。軽薄だが憎めないキャラだった『イカゲーム』よりも、苦悩に悶える『新しき世界』のイ・ジョンジェのようで、ひたすらシリアス路線を貫く。ギフンが心を許す唯一の存在が、シーズン1のエピソード1にも出てくる人物。彼の存在がシーズン2のギフンの行動の是非を問うことになる。展開も演出も驚くほど韓国ノワール寄りで、シーズン1のポップさに惹かれた世界中の視聴者はどう観るのだろうか、と心配になるほどだった。

 だがそれは杞憂で、完璧にローカライズされたシーズン2はNetflix側の要望だったそうだ。膨大なデータを持つNetflixには判断に基づく裏付けもあり、CCO(最高コンテンツ責任者)のベラ・バジャリアは、11月にロサンゼルスで行われたコンテンツショーケースでこう語っていた。「視聴者は地域に根付いた物語の信憑性を求める。グローバルな番組など存在せず、万人受けを狙った作品は、結果的に誰にもアピールしない」。そして、Netflix有料会員6億5000万世帯の2/3は米国外に住み、視聴数の70%が字幕か吹き替えで視聴し、会員の80%が何らかの韓国コンテンツを視聴したデータを明かした。例えば今年9月に配信開始された『白と黒のスプーン ~料理階級戦争〜』は、韓国で話題になると即座に東南アジアや米国などに存在する韓国コンテンツのファンコミュニティに広がり、1、2週間で欧米や中南米に、30日後には世界中に視聴者分布図が広がっていった。ローカルの視聴者を満足させないことには、世界的ヒットも形成されない。そして、今シーズンがあぶり出す複雑なテーマは、世界中で起きているものだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる