『おむすび』震災の記憶を風化させない作り手たちの矜持 避難所での食事を描く意義
その結果、食材は平等に行き渡るようになったが、美佐江の娘・菜摘(田畑志真/幼少期:今津里梨花)が腹痛を訴えて倒れた。原因は、当時他の人たちも悩まされていた便秘。トイレを使用しづらい環境や、パンやおむすびばかりで食物繊維が十分にとれない食事などがその理由だった。慣れない避難所生活のストレスもあるだろう。たかが便秘と侮ってはいけない。便秘が長く続くと、大腸潰瘍や腹膜炎などを発症することもあり、過去の震災では救急搬送された人もいるという。
地震大国である日本において、こうした体験を次の世代に語り繋いでいくことは非常に重要だ。だけど、当事者から無理やり話を聞き出そうとすることはある種の暴力に繋がりかねない。思い出すのが辛かったら話さなくてもいいとみんなを気遣う聖人の姿勢や、「被災した人の中には地震のことを二度と思い出したくない人もいる」という福田(岡嶋秀昭)の台詞には、この番組の矜持が詰まっている。
震災の時、食物繊維がとれるわかめを分けてくれた孝雄(緒形直人)も未だ真紀(大島美優)の死から立ち直れないままだ。そんな孝雄の「真紀はもうおらん。いつ死んでもええ」という言葉は重い。震災で身近な人を亡くした人の中にも、その人の分まで生きていこうと前を向いて進める人もいれば、生きる気力を失って時間が止まったままの人もいる。「人それぞれでよか」というサブタイトルが示すように、第10週では人それぞれ時間も方法も異なる心の復興が描かれるのだろう。
■放送情報
連続テレビ小説『おむすび』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:橋本環奈、仲里依紗、山本舞香、小手伸也、佐野勇斗、緒形直人、麻生久美子、北村有起哉、キムラ緑子、平祐奈、関口メンディー
語り:リリー・フランキー
主題歌:B'z「イルミネーション」
脚本:根本ノンジ
制作統括:宇佐川隆史、真鍋斎
プロデューサー:管原浩
写真提供=NHK