『光る君へ』渡辺大知の行成になぜ惹かれるのか 道長「俺のそばにいろ」の苦しさ
大宰府への赴任を申し出る場面も同様だ。「私はかつてのように道長様のお役に立てておりませぬ」という言葉には、これまた行成なりの気遣いが感じ取れるが、これ以上道長の政を支えることができない、道長のやり方に同意できないことのあらわれともいえる。なお、この場面で道長もなかなかずるい言葉を口にしていた。「私のそばを離れたいということか」という道長の言葉に対し、渡辺は台詞の前に意図的に間をあけたように思う。そしてそれは、行成が本心を言い当てられ、気まずさを覚えたようにも見えた。
行成は政を行う道長にとって欠かせない存在だ。長きにわたり、道長のそばで務めてきた行成の赴任を、道長は許さなかった。隆家(竜星涼)が太宰権帥に任じられ、行成はいつもと違い、はっきりと不満を述べた。「私の望みを捨て置いて」という言葉に憤りが感じられる。対して、道長の回答は簡潔だった。
「行成は俺のそばにいろ」
「そういうことだ」
この場面について、行成がどのような心情で立ち尽くしていたかは定かではない。道長が立ち去った後の厳しい面持ちやまなざしには、道長から自分の望みをないがしろにされたことへの苛立ちは残り続けていたようにも見える。しかし渡辺が見せた感情は不満だけでなかったはずだ。これからもそばで支えてほしいという道長の望みを知り、心中複雑ながらも、その望みを受け入れたようにも見えた。それに、道長に対する友情や尊敬の念を超えた特別な感情があふれだしそうになるのを抑えているようでもあった。
■放送情報
『光る君へ』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/ 翌週土曜13:05〜再放送
NHK BS・BSP4Kにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送
出演:吉高由里子、柄本佑、黒木華、井浦新、高杉真宙、吉田羊、高畑充希、町田啓太、玉置玲央、板谷由夏、ファーストサマーウイカ、高杉真宙、秋山竜次、三浦翔平、渡辺大知、本郷奏多、ユースケ・サンタマリア、佐々木蔵之介、岸谷五朗、段田安則
作:大石静
音楽:冬野ユミ
語り:伊東敏恵アナウンサー
制作統括:内田ゆき、松園武大
プロデューサー:大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろうほか
写真提供=NHK