次世代を担う舞台人が灯した火は消えない 東京芸術劇場「ゲゲキャン」が示す創造の可能性
筆者が『キャンカレ』公演に感じた“目に見えないバトン”
リハーサルで藤村が「シーンをつないでいく意識を!」とみんなに呼びかけていたのが印象に残っていた。演劇作品であれば“物語”という一本の太いスジがあるため、一つひとつのシーンは必然的につながっていく。けれどもダンス作品の場合は違う。「ゲゲメン」の面々は役を演じているわけではないし、明確な物語があるわけでもない。シーンごとに登場するメンバーは違うし、役割も異なる。つねに誰もが主役であるし、そのいっぽうで誰もが仲間たちを支える存在でもある。
でも筆者には、“目に見えないバトン”が渡っていくのがたしかに感じられた。これはみんなが仲間たちのことを思い合った結果なのかもしれない。
ひと口に「中高生」といっても、個々の身体は当然ながら違うし、育ってきた環境も一人ひとり違う。それぞれに用意されたソロパートでは、ダンサブルな動きを披露する者もいれば、演劇性の強い瞬間を生み出す者もいる。ここに「ゲゲメン」の個性が表れるのだ。
初舞台を経験したゲゲメン・うたが掴んだ自分の可能性
「ゲゲキャン」ではじめてダンスに挑戦し、はじめて舞台に立ったメンバーもいる。そのひとりが、うただ。いつも積極的に自身の意見やアイデアを出していたうたの姿は、とても印象に残っている。前向きに楽しもうとするその姿を見ているだけで、こちらまで楽しくなってきたものだ。うたに背中を押された「ゲゲメン」も多いのではないかと思う。聞けば普段から、変わった動きで友人やご家族を笑わせるのが得意らしい。そんなうたが「ゲゲキャン」に参加した理由は、もっと自由に自分を表現できるようになるためだ。
うたは自身について、「自分に自信がないんです。経験者も多い中で、私の取る行動が、みんなからしたら変なものだと思われてしまうかもしれないし、集団行動の中でズレてしまうかもしれない。でもそんなことは全然ありませんでした。みんなと日々を過ごす中で、いろんな表現方法を一緒に考えることができました」と語ってくれた。
そう、うたの発言に「ゲゲキャン」の重要なポイントがある。うたは「表現方法を“学んだ”」とは言っていない。「一緒に“考える”ことができた」と語っている。そうなのだ。主体は「ゲゲメン」の一人ひとりにある。むしろ主体性を獲得できなければ、クリエイティブ・ディレクター陣やプロデューサー、テクニカルスタッフをはじめとする大人たちとの協働も難しいはず。「現場レポート」で筆者は、メンバー同士が互いを尊重し合う創作環境があると記したが、他者を尊重してばかりではクリエイションは成立しない。まずは自己がなくてはダメなのだ。
自分の考えや想いというものを持っているからこそ、他者の想いや考えを尊重することができる。自分があるからこそ他者を見つけることができ、他者を見つけられたからこそ、また新たに自分を発見することができる。うたの発言から、そんなことを思った。
誰かに自分の気持ちを伝えるには、どんな方法があるだろうか。もっとも端的なのは、やっぱり言葉だ。けれども言葉にだって、いろいろあるのではないだろうか。“ボディーランゲージ”というものがあるくらいなのだから。「ゲゲキャン」ではそんなやり取りの集積が、やがて舞台上に乗るのだ。
そんなやり取りを重ね続けた人々が私たち観客と生み出す空間は美しかった。想像力と創造力に満ち溢れていた。「キャンプ」のあとに残るのは、いつも寂しさだ。けれども「キャンプファイヤー」の火が消えたとしても、同じ時間と空間をともにした者たちの心に灯った火は、永遠に消えることはない。そう信じたい。
藤村は「ゲゲメン」のみんなについて、「いま何かを掴みはじめているところ」と口にした。天空は今後の目標として、「生意気かもしれませんが、(藤村)港平さんたちとお仕事ができるようになりたい」と語ってくれた。いつか訪れるかもしれないその瞬間に立ち会うべく、筆者もライター/インタビュアーの仕事を続けていきたいと、気を引き締め直した。また「キャンプファイヤー」の火が灯り、頭上に「星空」がまたたく日を夢見てーー。
劇場とは何のために存在し、舞台芸術作品は何のために上演されるのか。なぜこんなにも、時代や、ときには国境を越えて上演され続けているのか。その答えを知るためには、自ら覗き込んでみればいい。もしも機会があるならば、飛び込んでみるといい。その扉は、万人に向けて開かれているものなのだから。その扉のひとつが、「ゲゲキャン」なのである。
参照
東京芸術劇場の新たな試み「ゲゲキャン」とは? 舞台芸術界の未来を担う若者たちが集結
舞台芸術の世界はいつも、観る者に夢を与える。幕が上がれば劇場空間には異世界が生まれ、観客席に座る誰もが、ここではないどこかへ向か…
■公演情報
ネクスト・クリエイション・プログラム 中高生のためのクリエイティブCAMP 2024
ゲゲキャン Dance Performance『キャンプ場で作るカレーはどこの家にもない味がする』
会場:東京芸術劇場 シアターウエスト
日程:2024年9月29日(日)
・11:30〜開場前パフォーマンス、11:40〜開場、12:00〜開演
・16:00〜開場前パフォーマンス(※)、16:10〜開場、16:30〜開演
※リラックス・パフォーマンス公演
(※開演前パフォーマンスはロワー広場(地下1階)にて実施)
演出・振付:碓井菜央、藤村港平
美術・衣装:ひびのこづえ
音楽:小野龍一
出演:阿部真夢、石井水葉、石山天空、うた、大橋冬惟、小野百合子、神谷青子、
川原山菜瑚、菊池乃衣、黒田梨路、桒原瑚香、東風谷汐珠、篠田萌々子、清水しずく、須磨日子、冨田玉葵、藤戸野絵、MEITO
主催:東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 東京芸術劇場
協力:東京芸術祭実行委員会
公式サイト:https://www.geigeki.jp/performance/creative2024/creative2024-2/creative2024-2-1/