東京芸術劇場の新たな試み「ゲゲキャン」とは? 舞台芸術界の未来を担う若者たちが集結

東京芸術劇場の新たな試み、ゲゲキャンとは?

 舞台芸術の世界はいつも、観る者に夢を与える。幕が上がれば劇場空間には異世界が生まれ、観客席に座る誰もが、ここではないどこかへ向かう。演劇やダンスなど、舞台芸術全般を愛する筆者にとって、そんな世界に幼い頃から馴染みのある人々がうらやましい。どのタイミングで出会うのかはとても重要だ。その後の人生に大きく影響する。

 東京・池袋のランドマークでもある東京芸術劇場(通称:芸劇)では、これまでに数々の名作と呼ばれる作品が誕生してきた。現在、そんな芸劇と東京都の主催事業として、「ゲゲキャン」が実施されている。

「ゲゲキャン」に参加している12歳〜18歳のメンバーたち(総勢18名)

 この「ゲゲキャン」とは、東京都が実施しているネクスト・クリエイション・プログラムの一部で、「中高生のためのクリエイティブCAMP」が正式名称のプロジェクト。東京都と芸劇による次世代のための共創プログラムで、平たく言うと、中高生が舞台芸術の世界に触れるためのワークショップだ。

 ダンサーにして演出家であり振付家でもある碓井菜央と藤村港平、現代音楽家の小野龍一、数々の名作の美術と衣装を手がけてきたコスチューム・アーティストのひびのこづえをクリエイティブ・ディレクターとして迎え、公募によって集まった中高生たちが、40日間にわたってダンス作品を創作。9月29日には東京芸術劇場のシアターウエストにて、ゲゲキャン公演『キャンプ場で作るカレーはどこの家にもない味がする』が上演される。

ダンスワークショップで“身体表現の面白さ”を伝える藤村港平

 筆者はライター活動をしているうちに、いつからか身体表現に強い関心を持つようになった。私たちの日常の営みのすべてに、“身体”というものが深く関わっているからだ。私には私の、あなたにはあなたの身体があり、同じものはひとつとして存在しない。自分の身体に意識を向けることで得られる感覚があるし、他人の身体に注目してみることで見えてくる景色というものがある。

 そんなわけで、「ゲゲキャン」の取材にお邪魔した筆者もワークショップに参加。シンプルなストレッチにはじまり、参加者同士がお互いの身体を信頼し合っていなければ成立しないワークやシアターゲームを一緒に行った。

 今回集まったメンバーは、幼少期より身体表現や舞台芸術に慣れ親しんできた人々……というわけではない。年齢も育ってきた環境もバラバラ。最初は誰もが緊張し、「シーン……」としていたものらしい。

どことなく“緊張感”が漂う、「第1回クリエイティブCAMP」の様子

 しかし筆者がはじめてお邪魔した際には、ワークショップ開始からほんの数日のことにもかかわらず、すでに明るくにぎやかな雰囲気が出来上がっていた。それこそまさにキャンプ場のような雰囲気が。

 思い返せば筆者は、中学生にもなると他人の目ばかりが気になって仕方ないものだった。けれども身体をほぐし、心もほぐれると、自然とみんな自由になっていくらしい。一人ひとりがほかのメンバーの考えを尊重しつつ、自己主張すべきところではハッキリとする。「人前で何かをやるのが苦手な自分を変えたい」「自分が表現したいことを素直に表現できるように」などなど、ここにやってきた理由はそれぞれ。誰もが切実さを抱えている。

 ワークショップでは「キャンプ」というお題に合わせて身体を動かし、それをダンスに発展させたり、劇場の周辺で音を採取したり、歌をつくったり、そして、本番で自分が身につける衣装をつくったりする。ここでしか出会えない人々との、ここでしか生まれない時間と関係。“協調性”と“主体性”が自然と育まれる環境で、「ゲゲキャン」の多大な可能性が見えてくる。

音楽ワークショップ(館外での音採取)を楽しむメンバー

 数日間のワークショップで準備が整うと、本番に向けての本格的なクリエイションがはじまった。

 ダンス作品をつくるうえでアシスタントがふたり加わり、チームはよりにぎやかに。もちろん、舞台芸術作品というものは、演者と音楽と衣装だけでは成立しない。見えないところから作品を支え、メンバーを輝かせるプロのスタッフ陣も集結だ。こうして「ゲゲキャン」の稽古場が立ち上がっていく。

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