橋本環奈が過去・現在・未来に向き合う 『おむすび』が描く“あの日”の傷と再生

『おむすび』が描く“あの日”の傷と再生

 放送中の朝ドラ『おむすび』(NHK総合)の第5週では、ヒロイン・米田結(橋本環奈)の家族の“過去”が明かされたーー。本作は平成元年生まれのヒロインが栄養士として、人の心と未来を結んでいく青春模様を描く作品である。

 物語の舞台は平成中期の福岡県糸島ーー。第5週目の「あの日のこと」では、先述しているように米田家の過去が描かれた。それぞれ個性的な米田家の面々だが、なかなか他人には打ち明けることのできない、“心の澱”のようなものが描かれていたのではないだろうか。

 そう、このページにたどり着いている方々は誰もが知っているだろう。かつて神戸に住んでいた米田家は、1995年に起こった阪神・淡路大震災の被災者たちなのである。このことを知ったいま、米田家が被災する瞬間をまざまざと見せつけられたばかりのいま、いつも明るい(ように見える)この一家に何と声をかけられるだろうか。私だったら何も言えない。当事者ではないのだから、当然である。

 読者の方の中には、あの震災を身をもって知っている方がいるのかもしれない。しかし、私は知らない。世代的には結とほとんど同じなのだが、ニュースの見方も分からなかった当時の私は九州にいたため、何も理解できていなかったはずだ。同い年の子どもたちが苦しんでいるということさえも。

 第5週は震災のショッキングなシーンで幕を開け、それから結をはじめ、父の聖人(北村有起哉)、母の愛子(麻生久美子)、そして姉の歩(仲里依紗)が、「あの日のこと」をそれぞれどのように捉えているのかが描かれた。米田家の一人ひとりが何を思い、いまもなお苦しんでいることを私たちは知っただろう。歩が大切な友人を失ったことによって、この家族のかたちは少しずつ変わっていったらしい。結も愛子も為す術はなく、聖人は歩がギャル化して不良みたくなったことを自分のせいなのだと嘆いているのだ。

 ここで浮かび上がってくる主題は、悲しく苦しいできごとによって心に深い傷を負ってしまった者との“向き合い方”なのではないだろうか。「あの日のこと」で深く傷ついた歩は、ある種の自衛の手段としてギャル化したのだと読むことができる。彼女は友人を失ったことにより、完全に変わってしまった。そんな自分から新たに生まれ変わるには、何かに変身すればいい。いや、歩の場合は変身するしかなかったのではないか。友人のいない日常を彼女が生きていくためには、ギャルになるよりほかに方法がなかったのではないか。

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