『おむすび』はなぜ震災を真正面から描いたのか 制作統括&演出が大切にした“時間と心”

『おむすび』はなぜ震災を真正面から描いたのか

 NHK連続テレビ小説『おむすび』が現在放送中。平成元年生まれの主人公・米田結(橋本環奈)が、どんなときでも自分らしさを大切にする“ギャル魂”を胸に、栄養士として人の心と未来を結んでいく“平成青春グラフィティ”。

 第5週、糸島フェスティバルを無事に終えた結は、海辺で四ツ木(佐野勇斗)にあの日のことを語り始める。

 1995年1月、6歳の結(磯村アメリ)は家族で神戸に住んでいた。姉の親友・真紀(大島美優)からセーラームーン風のアクセサリーをもらい、無邪気にはしゃぐ何気ない日常。ところが翌朝、地震が発生。その後世界は一変し、米田家は震災による悲惨な現実に直面することになる。

 制作統括の宇佐川隆史は、本作における震災の描写を「何十人ものスタッフが取材や資料の読み込みを行い、何度も議論を尽くした上で表現したもの」とし、「その表現が正しいのか議論はあると思いますが、このドラマをきっかけに神戸のことや震災のこと、そして私たちが今置かれている状況や身の回りのこと、人々に思いを馳せてもらえたらと思っています」と願いを込める。

 第5週の演出を担当した松木健祐は「震災に遭った人の気持ちは、やはり被災者にしかわからないんだ、と。最後まで“わからない”ということに向き合い続ける覚悟でキャストと一緒に挑みました」と述べ、「主演の橋本さんは、震災後に生まれた方。そんな彼女が震災のことを一生懸命わかろうとしながら撮影している姿にすごく胸を打たれて、ドラマをやる意味があるなと思いました」と素直な感情を口にする。

 震災を描くにあたり、松木がもっとも大事にしたのは“時間”。その理由について、「被災した翌日には前向きになった人もいるし、1週間後に前向きになった人もいる。1カ月後、1年後と時間を重ねるにつれて震災との向き合い方がみなさんそれぞれ変化されていたので、米田家が震災から現在(2004年)まで歩んできた9年という時間の流れをどう想像させるか、ということに重きを置きました」と説明する。

「100人いたら100人のエピソードがあって、それぞれ感じ方が違っている。それを取り扱うことに戸惑いもありましたが、『同じ被災者であっても、その悲しみを簡単に分かち合うことはできない』ということが、大きな共通項だというところに行き着きました。同じ被害を受けた家族だとしても、悲しみを同じように共有することはできない。それをそのまま米田家に体現してもらっています」

 避難所での生活を描く上でも、やはり重視したのは体験談。松木は「当時、避難所の管理をしていた学校の先生や市役所の方、地域のリーダーの方などに現場へ来ていただいて、『この時は一体どういう状況だったのか』を徹底的にインタビューしました。『今は地震発生から3時間後です。周囲の状況はどうでしたか?』『カーテンは開いていましたか?』『ストーブはありましたか?』と。一冊の本を読めばすべてがわかるようなことではないので、たくさんの方にお話を聞かせて頂きました」と取材の日々を振り返る。

「震災を描いた映像作品はもう少し時間が経ってからのものが多いですが、実際、地震発生直後には被災者の方たちもやや興奮気味というか、思い思いにたくさん喋っていた、と聞きまして。暗い顔でうなだれている、泣いている、悲鳴が聞こえるといった状況を僕は想像していたので、驚きましたし、ドラマにも反映しています」

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