中村悠一は“七色の声”を自在に操る声優だ 『チ。』バデーニから『わんぷり』大福まで
「好きとか夢とか希望とか、そういうものは捨てちゃダメだ!」という言葉に、背筋がピンと伸びた視聴者は私だけではないだろう。自分は今、人生で見落としてきた大切なことを学び直しているのではないか。TVアニメ『チ。 ―地球の運動について―』を毎話観るたびに、そう強く思わされる。
第4話以降、物語はラファウの死から10年後へ。主役交代でアニメのエンディングが変わる作品は多いものの、本作はオープニングまでもが変更される力の入れようだ。新しいオープニング映像では、炎に包まれるラファウ、広い大地を歩むオクジー、嘔吐するバデーニ、星空を見つめるヨレンタの姿が映し出される。これらの象徴的なシーンの数々は、主人公が代闘士オクジーへと変わった後の物語の深まりを予感させる。
ここからとりわけ期待が高まるのが、中村悠一演じるバデーニの登場だ。第6話「世界を、動かせ」では、異端者とグラスの両者から「想い」を託されたオクジーが、村外れの教会に住む修道士バデーニを訪ねる。2人の出会いによって物語がさらに大きく動いていくという展開は、原作ファンにとって、ついに待ちに待った瞬間なのではないだろうか。
バデーニを演じる中村は、今や男女を問わず「あのアニメキャラの……!」と誰もが役柄を思い浮かべるベテラン声優としての地位を確立している。最近では『逃げ上手の若君』で強烈な印象を残した諏訪頼重役や、現在公開中の劇場アニメ『わんだふるぷりきゅあ!ざ・むーびー! ドキドキ♡ゲームの世界で大冒険!』で話題を呼んだうさぎの大福役など、その活躍は留まるところを知らない。女装アイドルから、うさぎ、九尾、某高専の教師まで、まさに“七色の声を自在に操る声優”として、その評価は揺るぎないものとなっている。
しかし今回、中村悠一が演じるバデーニは、これまでの彼の代表作で演じてきたキャラクターとはまた違った魅力を放つキャラクターだ。
常に自分を特別たらしめる瞬間を追い求め、「知」を得ることへの並々ならぬ執着と傲慢さを兼ね備えた魅力的なバデーニ。その研ぎ澄まされた知性は素晴らしいものの、言葉を選ばずにいえば、物腰柔らかなオクジーとは対照的な“カタブツ”な人物でもある。にもかかわらず、オープニング映像にも描かれている印象的な嘔吐シーンが象徴するように、時に意外にもコミカルな形で表現されることも(もはやこの作品における“ゲロイン”と言っても過言ではない)。知的で傲慢、なのに時折思わずクスッと笑いを誘うような一面を持つバデーニは、原作でも屈指の人気を誇る。