『宙わたる教室』イッセー尾形の圧巻の“語り” 誰もが“金の卵”だからこそ広がる可能性

『宙わたる教室』イッセー尾形の圧巻の語り

 教壇に立った長嶺は、自身の生い立ちは今でも悔しそうに、妻の話になると愛おしそうに、夫婦の出会いについては照れくさそうに、と実に彩り豊かな感情を見せる。「一人芝居の第一人者」と呼ばれるイッセー尾形の、実際には映っていない長嶺と江美子の回想シーンが頭で流れるかのような圧巻の“語り”に耳目を奪われた。そして最後は長嶺の感情が怒りに転じる。勉強が好きで、いつか定時制高校に通うことを夢見ていた江美子。けれど、いざ子供の手が離れてようやくと思ったら、タイル工場で粉塵まみれなっていたことが原因でじん肺になり、その道が絶たれた。長嶺はそんな妻の代わりに定時制に通っていたのだ。

 授業で何度も質問するのは江美子の前で授業をするためであり、岳人にタバコをしつこく注意していたのは自分がヘビースモーカーで妻の肺に負担をかけてしまったという後悔があるから。それを知らずに、岳人をはじめとする若い生徒たちは長嶺のことをただ“厄介者”扱いしていた。年齢に限らず、人間は相手の言動の理由まで深く考えず、勝手な想像でレッテルを貼ってしまいがちだ。そのほうが関わらなくてもいい大義名分ができて楽だから。だけど、長嶺の設計図をもとに藤竹が作った発射装置で鉄球=金の卵の速度が上がり、クレーターの再現実験に進捗があったように、関わることで生まれる何かが必ずある。このドラマは勉強に限らず、興味を持つこと、想像すること、知ることの大切さを教えてくれる作品だ。

 もっと自分の高校生活を楽しんでほしいという江美子の思いを受け止め、正式に発足した科学部に入部することを決めた長嶺。ずっと対立していた岳人との溝が完全に埋まったわけではない。だけど、手を動かして技術を覚えてきた長嶺は、同じく岳人が手を動かして知識を得ようとした証である、書き込みや付箋だらけの物理の本にかつての情熱を見出す。誰もがたくさんの可能性を秘めた金の卵。この先も2人は折りにつけて衝突するかもしれないが、その度にまた新たな何かが生まれるに違いない。

■放送情報
ドラマ10『宙わたる教室』
NHK総合にて、毎週火曜22:00〜22:45放送
BSP4Kにて、毎週火曜18:15〜1900放送
NHKプラスにて、同時配信・見逃し配信(放送後から1週間):https://www.nhk.jp/p/ts/11GMGMRG5V/plus/
出演:窪田正孝、小林虎之介、伊東蒼、ガウ、田中哲司、木村文乃、中村蒼、イッセー尾形 ほか
原作:伊与原新『宙わたる教室』
脚本:澤井香織
演出:吉川久岳(ランプ)、一色隆司(NHKエンタープライズ)、山下和徳
制作統括:橋立聖史(ランプ)、神林伸太郎(NHKエンタープライズ)、渡辺悟(NHK)
写真提供=NHK

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