『おむすび』“愛子”麻生久美子が語った移住時の思い 永吉と佳代の“助け合い”の精神
『おむすび』(NHK総合)第23話で、糸島フェスティバルの打ち上げの宴会が米田家で開かれる。結(橋本環奈)も翔也(佐野勇斗)とともに参加する中、歩(仲里依紗)は参加せず自分の部屋に閉じこもった。台所では愛子(麻生久美子)が糸島に移住した時のことを思い出す。
愛子たちが台所で料理をしている時、佳代(宮崎美子)は永吉(松平健)について「あん人、思いついたら後先考えんで動きんしゃあけん」と言っていた。
「でも、おじいちゃんのそういう性格のおかげで私たちが今、糸島にいるから」
感謝の念を示すやわらかな声色とは裏腹に、糸島に移住した時のことを思い出す愛子の表情はかたい。結や歩に寄り添う明るい表情が印象的なだけに、愛子もまた震災で受けた心の傷が癒えていないのだと伝わってくる。
しかし第23話で描かれたのは悲しみだけではない。登場人物たちの誰もが、目の前にいる誰かのために行動していることが伝わってくる、そんな優しさに感じ入る回でもあった。
まずは永吉だ。永吉は地震発生から5日目に神戸を訪れ、聖人(北村有起哉)たち家族の無事を確認する。困惑する聖人を前に、「お前、生きとったか!」「子供たちは?」「愛子さんは無事か!?」と矢継ぎ早に問いかける松平の演技からは、物語序盤で佳代が話していたように、“思いついたら後先考えずに行動する”永吉が家族を心配して飛んで来た背景が浮かんでくるようだった。親友を亡くし、誰とも話さず、ごはんも食べなくなってしまった歩(高松咲希)を、永吉が口を結んで見つめる姿にも、顔つきこそ険しいが「なんとかしてやりたい」という気持ちが伝わってくる。
一方で、永吉から「糸島へ来い」と言われ、「世話んなった神戸が今、大変なことになってるんや! それ、ほっといて行けるわけないやろ!」と反発する聖人の気持ちもわかる。だが、福田(岡嶋秀昭)や若林(新納慎也)は故郷へ行くべきだと聖人を諭した。若林は、仮設住宅へは行き場のない人を一人でも多く案内したい、帰れる場所があるならそっちに行ってもらいたいと、市としての立場を思わせる言葉をかけたが、演じている新納の台詞の言い回しからは、純粋に米田家を心配する気持ちが表れている。聖人が神戸のために行動したいと思うのと同じくらい、彼らもまた神戸・さくら通り商店街の一員である聖人たちを思って言葉をかけているのだ。
娘のためを思う気持ちと神戸を思う気持ちに挟まれながらも、自分なりに決断を下す聖人の心情は、聖人を演じている北村の目の動きや口元に表れている。聖人は彼らの思いを受け止めたうえで「俺はもう少し残って、神戸のためにやれることをやる」と決めた。