『放課後カルテ』松下洸平が子どもたちに施した“命の授業” 岡本望来ら子役の名演が光る
一方で、勇吾が木から落ちたのは「高いところから飛び降りて、うまく着地できたらかっこいい」という友達・朝陽(渋谷いる太)との度胸試しが原因だった。命の重さをまだ実感できていない子どもたちは時に、自分の命も軽んじて危険に晒してしまうことがある。そんな度胸試し、突破したところで何にもならないし、寿命を縮めるだけ。大人になれば誰もがそう思える。他方で幼い頃の気持ちを思い返してみれば、「子どもには子どもの世界があって、それが全てなこともある」という篠谷の意見も理解できる。だけど、そこに寄り添った上で、じゃあどうやって命の大切さを分かってもらうのかと言われた時に、言葉に詰まってしまうのが多くの大人だ。
そこで牧野は、下校途中に横から飛び出してきた自転車と衝突して意識不明の状態で自分が勤めていた大学病院に入院している子どものところへ朝陽を連れていく。同い年くらいの男の子がベッドで管に繋がれ、眠っている姿を見た朝陽はしばらく言葉を失っていた。トラウマになったらどうするのか、と牧野の行動を責める人もいるかもしれない。だけど、勇吾の命が幸いにも助かったことで、徐々にその出来事が2人の間で風化していき、また同じことを繰り返す可能性もある。だからこそ、牧野は多少手荒な方法であっても今、自分たちがどれだけ危険なことをしたかを2人に伝えるべきだと考えたのだ。
「5分前に戻ってやり直したい、そう思ってもやり直せないのが命だ。だから大切に扱わないといけない」と朝陽に語りかける牧野。医師としてたくさんの命と向き合ってきた彼の実感のこもった、厳しくも温かみを感じさせる声でその言葉がスッと心に沁み入る。朝陽や勇吾の心にも牧野の言葉は届いた。お互い生きて言葉を交わせている状況に安堵したかのように、彼らは涙を流す。子役2人の名演に思わずもらい泣きさせられた。
名演といえば、今回の主役の1人でもある岡本望来も素晴らしかった。学校帰りの神社で老人が意識を失って倒れる場面に遭遇した啓。牧野を敵視しながらも咄嗟に講習を思い出して彼に連絡し、指示を仰ぎながらAEDで救命を行う。小刻みに震える体と目から溢れて止まらない涙。岡本の鬼気迫る演技が、目の前の命を自分だけが握っている恐怖を映し出していた。
その恐怖に抗い、啓が心臓マッサージを続けた結果、老人は一命を取り留める。木から落ちた勇吾のことも気遣っていたように、本来はとても責任感が強い子なのだろう。弟の直明(土屋陽翔)が病気で牧野が勤めていた大学病院に入院していることもあり、他の児童よりも命の重みも知っているであろう啓。そんな彼女がなぜ「牧野が患者を殺した」という無責任な噂を流したかといえば、牧野が弟を見捨てたと感じていたからだった。ぶっきらぼうだけど、どんな生徒のSOSにも平等に向き合っている牧野が命を選別するとは思えないが、もしそうせざるを得ない理由があったとするなら彼が大学病院を辞めたことと何か関係しているのかもしれない。
■放送情報
土ドラ9『放課後カルテ』
日本テレビ系にて、毎週土曜21:00〜放送
出演:松下洸平、森川葵、ホラン千秋、平岡祐太、高野洸、六角慎司
原作:日生マユ『放課後カルテ』(講談社『BE・LOVE』所載)
脚本:ひかわかよ
演出:鈴木勇馬ほか
音楽:得田真裕
チーフプロデューサー:松本京子
プロデューサー:岩崎秀紀、秋元孝之、大護彰子
協力プロデューサー:大平太
制作協力:オフィスクレッシェンド
製作著作:日本テレビ
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