三谷幸喜の『スオミ』での“挑戦”は議論を呼ぶ結果に 『鎌倉殿』で得た“現代性”の試行錯誤

『スオミ』は三谷幸喜の自己言及的な一作

 5年ぶりとなる三谷幸喜監督の新作映画『スオミの話をしよう』(以下、『スオミ』)は、著名な詩人・寒川しずお(坂東彌十郎)の妻・スオミ(長澤まさみ)が行方不明になったことをきっかけに、スオミの元夫4人と現在の夫・寒川が一堂に会するコメディだ。

 劇中では5人が語るスオミの姿が描かれるのだが、スオミの性格は全員バラバラ。夫たちが「果たして本当のスオミはどういう女性だったのか?」と悩みながらも、スオミのことを一番理解していたのは自分だと主張する姿はとても滑稽である。中でも4番目の夫で警察官の草野圭吾(西島秀俊)は行方不明のスオミの捜査をおこなう主人公的存在だが、スオミの意見を聞こうとせずに自分の意見ばかり細かく伝えてる無神経な男で、注文に対応できずに困っているスオミを見て、彼女は何もできないダメな女なのだと思い込んでいる姿がさりげなく描かれる。

 他の男も似たり寄ったりで、無自覚に自分が好きな女性像をスオミに押し付け、演じさせようとしていた。そんな鈍感な男たちにスオミが何を感じ、どういう結論を下すかが、本作の見どころである。 

 2022年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は、近年でもっとも高く評価された三谷脚本の映像作品だったが、中でも賞賛されたのが女性の描き方だ。

 三谷は女性を書くことが苦手で、女性の描写が下手な脚本家だと言われることに悩んでいたという。しかし、『鎌倉殿の13人』では女性のスタッフに意見を聞いて参考にすることで、これまでとは違う女性を描くことに成功した。

 『鎌倉殿の13人』を経ての新作映画となった『スオミ』は、「これまでの女性描写を脱却した、新しい三谷映画となるのではないか?」と期待されていた。あらすじだけ抜き出すと、フェミニズム映画と言えなくもない。

 特に夫5人のスオミに対する態度は「有害な男らしさ」そのもので、男性批判にも見える。同時に共通の女性の話題を通して反目し合いながらも次第に仲を深めていく男たちの絆の描き方はとてもグロテスクなものに映る。

 一方、夫が変わるたびに性格が変わるスオミの姿は、古沢良太脚本の連続ドラマ『コンフィデンスマンJP』(フジテレビ系)で同じ長澤まさみが演じたダー子の姿を連想させる。

 2018年に放送された本作は、信用詐欺師(コンフィデンスマン)のダー子が、信用詐欺を仕掛けるために、さまざまな女性を演じるドラマ。『スオミ』も、長澤がさまざまな女性を演じるため、彼女の正体はダー子なんじゃないかと途中まで疑っていた。

 スオミもダー子も、相手にとって都合のいい理想的な女性を演じる女優的存在だが、三谷は映画『ザ・マジックアワー』を筆頭に、何かの役割を演じている偽者(俳優)が、演じ続けることで本物を凌駕する存在になるという物語を多く手がけている。『スオミ』はその構造を逆側から描いた作品で、その意味でとても自己言及的な作品である。

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