大人と子供の世界を繋いだ異色作 『江戸川乱歩シリーズ 明智小五郎』が必見である理由
本シリーズでは乱歩ファンにはおなじみの人気のキャラクターも登場する。その代表が女怪盗、黒蜥蜴だ。京マチ子、美輪明宏、倍賞美津子、小川真由美、松坂慶子など、これまで名だたる女優が黒蜥蜴を演じたが、第4話「ダイヤモンドを喰う女 黒蜥蜴より」で演じているのは野川由美子。小林青年が密かに憧れる清楚な図書館の司書は仮の姿で、その正体はダイヤモンドを狙う黒蜥蜴。黒蜥蜴の時の貴婦人めいたファッションに身を包んだ野川は貫禄十分だが、ガーリーな司書姿も似合っている。
野川をはじめ、夏珠美、弓恵子、佐々木愛など、各エピソードに美女が登場するのも本シリーズの魅力。女優の華やかさでは『江戸川乱歩の美女シリーズ』に負けていない。そんななか、第3話「黄金仮面」でゴーコー喫茶を徘徊し、LSDを持ち歩いている松岡きっこのフーテン娘ぶりからは時代の空気が伝わってくる。ちなみに、「殺しの招待状 蜘蛛男より」の冒頭、喫茶店でサイケな曲を演奏しているのは、ザ・カーナビーツのギタリスト、喜多村次郎のバンド、ライフ。GSファンはチェックされたし。
また、本シリーズは特撮ファンも必見だ。音楽を担当しているのは翌年から放送がスタートする『仮面ライダー』と同じ菊池俊輔で、曲調は『仮面ライダー』と良く似ている。そして、監督で参加している田口勝彦、竹本弘一は、その後、『仮面ライダー』のローテーション監督として活躍。田口は『仮面ライダー』に参加する際、『仮面ライダー』のテーマを「恐怖」と決めたそうだが、『江戸川乱歩シリーズ 明智小五郎』での経験が反映されていたのかもしれない。思えば、『仮面ライダー』も本シリーズも第1話に登場する敵は蜘蛛男だ。
「殺しの招待状 蜘蛛男より」や「黄金仮面」では、手下を従えた敵キャラが登場。ラストで明智と激しいアクションで一騎打ちをする。そういった物語の展開。そして、長髪できりりとした眉を持つ明智のヒーロー像は『仮面ライダー』に受け継がれたのではないだろうか。とりわけ『仮面ライダー』色が強いのが「黄金仮面」だ。忌まわしい過去から黄金を憎むようになった黄金仮面のコスチュームは、仮面も含めて全身ゴールド。改造こそされていないが怪人的なキャラクターだ。演じているのは、翌1971年に『帰ってきたウルトラマン』で郷秀樹役に抜擢される団次朗。団は1975年に放映された『少年探偵団』で怪人二十面相を演じているが、本作に出演したことも関係があったのかもしれない。黄金仮面は第11話「復讐鬼 黄金仮面」、第19話「呪いの黄金仮面」でも登場するほど人気のキャラクターだった。
「異常性愛路線」(大人の世界)と「仮面ライダー」(子供の世界)を繋ぐ作品という点でも、『江戸川乱歩シリーズ 明智小五郎』は異彩を放っている。いまの視線でみればツッコミどころも多いかもしれないが、東映ならではのサービス満点のエンタメ精神で江戸川乱歩の怪奇と幻想の世界をドラマ化した本作は、駄菓子のように親しみやすくて観れば観るほどクセになる。大人の世界を妄想していた子供の頃に帰れる隠れた名作だ。
■放送情報
『江戸川乱歩シリーズ 明智小五郎』
東映チャンネルにて、10月4日(金)より放送開始
※10月6日(日)17:00~ 第1話を無料放送
毎週金曜15:00~17:00放送
再放送:毎週金曜09:00〜11:00
監督:工藤栄一ほか
脚本:池上金男ほか
出演:滝俊介、橘ますみ、岡田裕介、山田吾一、山村聡ほか
1970年
©東映
『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』
東映チャンネルにて、10月21日(金)22:00〜24:00放送
監督:石井輝男
脚本:石井輝男、掛札昌裕
出演:吉田輝雄、由美てる子、小池朝雄、大木実、賀川雪絵、葵三津子、小畑通子、尾花ミキほか
1969年
©東映