圧倒的センスと才能の塊 2024年の覇権作『ダンダダン』を観ずして令和アニメは語れない
『少年ジャンプ+』の人気看板作、『ダンダダン』(集英社)のアニメが10月3日から放送開始となる。龍幸伸による原作は累計発行部数320万部、閲覧数4億4,000万を超えるほど人気で、実際映像化が決定した時からファンの高い期待が寄せられていた。私も連載開始日、『少年ジャンプ+』で本作の第1話を読んで頭を殴られたかのような衝撃と感動を覚えたことを今でも忘れない。そして本稿執筆にあたって一足先に第1話から第3話を試写で鑑賞した私の頭は再び殴られる。原作ファンの贔屓目を抜きにしても、覇権アニメ云々を通り越して、令和のアニメシーンを語る上で欠かせない重要な作品になると感じた『ダンダダン』。とにかくすごい。では何がすごいのか、その魅力を解明していこう。
オープニングから滲み出る圧倒的センスと“選択”
まずは何と言ってもCreepy Nutsによる書き下ろし曲「オトノケ」が流れるオープニング映像。反対色を意識したカラーパレットやネオンの使い方がお洒落なイントロ映像は、登場人物の豊かな表情を見せていく。シンプルだがとても印象的だ。そしてスタッフクレジットもただ複数の名前を一覧で載せるのではなく、ひとりひとりを大文字に描くことで情報がデザインの一部になっているのが素晴らしい。こういった「アニメのオープニング映像」における“選択”にはぜひ注目していきたい。
社会現象を巻き起こしたTVアニメ『マッシュル-MASHLE- 神覚者候補選抜試験編』のオープニング曲「Bling-Bang-Bang-Born」を担当したCreepy Nutsが手がけることもあって、すでに発表当時から話題を呼んでいた「オトノケ」。都市伝説妖怪「ヤマノケ」とかけた本楽曲の中には、ヤマノケに取り憑かれた女性が呟くと言われている「はいれたはいれたはいれた」という言葉や、作者が『ダンダダン』に影響を与えた映画として挙げている『貞子VS伽倻子』から、「貞ちゃん、伽耶ちゃん」が歌詞の中に怪奇的なリファレンスで潜められているのも魅力的。
それに加え、登場するUMAや幽霊が切り絵のようなアートスタイルでクレジットとともに映されていくのも初代『ウルトラマン』のオープニングのオマージュになっていて、愛を感じる。まさにオカルティック青春物語にぴったりな楽曲と映像は、『ダンダダン』の魅力を語る上で欠かせない存在なのだ。エンディング曲「TAIDADA」も、“ネコ”に縁のある「ずとまよ」こと、ずっと真夜中でいいのに。が担当するからこその映像と軽快な音楽を楽しみにしてほしい。
漫画を意識したアニメーション表現
もちろん本編も最高そのもの。『ダンダダン』は兎にも角にも、原作者・龍による緻密な書き込み、新鮮な怪異のデザイン、インパクトの大きい見開きなど圧倒的かつ疾走感を感じる画力が魅力的な作品だ。その静止画・平面で表現していたものを動く立体と映像に落とし込むのは簡単ではない。しかし、そのファンの懸念をサイエンスSARUは拭っていく。特に序盤は「フラッドウッズモンスター」から逃げまくるシーンや「ターボババア」との“鬼ごっこ”など、足元の動きが激しいシーンが多い。その際の足元の細かい“踏み”のアニメーションがすごいのだ。もちろん、アクションは見応え抜群。見開きの絵のインパクトや、細かいやりとりもアニメでそのまま表現されている印象があり、原作ファンへの目配せもしっかりしている印象である。
原作では一コマの中でキャラクターがガニ股でいたり、反り腰で歪みあったりするなど独特なポージングをとっているのが面白いが、アニメでコマとコマの間の動きがしっかり保管されていたり、漫画でクロースアップに描かれていたシーンが引きでも描かれていたりと、“映像で本作を描く旨み”に溢れている。また、早いテンポで展開していくの原作ならではのスピード感がアニメに引き継がれているようにも感じた。
そしてそれらの動作を引き立てる劇伴の素晴らしさ。劇伴を手がける牛尾憲輔はこれまでも多くの映画やアニメのサウンドトラックに関わり、映像との相乗効果を考慮した音楽作りを得意としてきた。2024年の「SONIC MANIA」でもOST Dance Setで会場を盛り上げた彼の持つ、アニメ劇伴における自由な発想が特に第4話で炸裂しているので、ぜひ楽しみにしていただきたい。