柳楽優弥の“狂気”と黒島結菜の“歯”で完成 『夏目アラタの結婚』の予期せぬ展開に胸が躍る
もう一点、品川真珠の体のパーツの中で、印象的な部分がある。それは、「目」だ。あの光のない、どこまでも深く真っ黒な瞳。こちらを覗き返してくる「深淵」のような瞳。1回20分の面会でその深淵を覗き込みすぎたアラタは、演者である柳楽優弥本来の狂気性を発揮し始める。
サイコスリラーであり、事件の真相を紐解く推理劇であり、アラタと真珠の駆け引きを楽しむ会話劇でもあった本作は、アラタの“狂気の愛”により、突如“冒険活劇”になる。観て確認してほしいので詳しくは書かない(ヒント:アラタは元ヤン)。ただアクション映画にうるさい筆者は、この予期せぬ展開にワクワクしてしまった。そして最後は純愛ラブストーリーになる。
ありとあらゆる要素が詰め込まれ、非常にジャンル分けの難しい作品である。この点については監督である堤幸彦が、公式パンフレットで語っている(今回、公式パンフレット大活躍である)。
「よく映画では“引き算の美学”という言葉が使われるけど、この映画はそうじゃないんです。ご飯にありとあらゆるものを全部乗せる。一見グチャグチャに見えるけど、『最後はやっぱりご飯だよね』って」
わかるようでよくわからない解説ではある。だが堤監督が現実に目の前にいて、あの哲学者のような顔で直接同じことを言ったとする。「おっしゃる通り! 最後はやっぱりご飯ですよね!」と答えてしまうのではないだろうか。少なくとも、筆者は答えてしまう。
この作品は、原作が完結する前に製作されたため、原作とは結末が異なる。したがって、どちらを先に観ても、お互いのネタバレにならない。昔、角川映画が、「読んでから見るか、見てから読むか」という有名なキャッチコピーを打ち出したことがあった。どうぞお好きな方で。
だが筆者としては、余計な予備知識は入れず、まっさらな状態で、まず映画版を観てほしい。二転三転する展開に、その都度新鮮に驚いてほしい。したがって、このコラムで読んだ内容も、一旦忘れてくれないだろうか。
■公開情報
『夏目アラタの結婚』
全国公開中
出演:柳楽優弥、黒島結菜、中川大志、丸山礼、立川志らく、福士誠治、今野浩喜、平岡祐太、藤間爽子、佐藤二朗、市村正親
原作:乃木坂太郎『夏目アラタの結婚』(小学館ビッグコミックスペリオール刊)
監督:堤幸彦
配給:ワーナー・ブラザース映画
©️乃木坂太郎/小学館 ©️2024映画「夏目アラタの結婚」製作委員会
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