中村倫也演じる弱井先生にまた会える日まで 『Shrink』は1ミリの無駄もなく隙のない一作に

『Shrink』弱井先生にまた会える日まで

「治療が進めばいずれ必ず、周りの人や風景がこれまでと違って見える瞬間があります」
「でも、その時が来ても、どうか恐れないでください。それこそが小山内さんが変わろうとした証ですから」

 弱井のセリフ通り、風花の生きづらさが薄まっていくにつれて、両親や優の歪さが浮き彫りになっていく。前を向けるようになった風花と、大切な人たちの足並みが揃わなくなってしまったことは切ない。しかし、「人とちゃんとまともに話せるようになったら、パパと話してみたいな」と言っていた風花が、治療の最終的なゴールにしていた“父との対話”を諦め、両親からも恋人からも卒業するラストは、想像以上に晴れやかだった。数ある物語の中から、親との折り合いが悪くSOSを出せずに苦しむ風花のエピソードで締め括ったことも、さまざまな番組を通して、若者世代に手を差し伸べるNHKらしい結びだ。

 あっという間の全3話だったが、『Shrink』の実写化作品として、かなり満足度の高い一作になっていたと思う。物語を積み重ねることで視聴者の理解を深め、難しく繊細なテーマをあらゆる角度から言及できたのも、連続ドラマならでは。木漏れ日がさす新宿ひだまりクリニックや、色とりどりの花に囲まれながら再出発を果たす風花のシーンなど、美しい映像によって、原作の温度感が伝わる作品になっていたことも嬉しかった。

 続編を待ちきれない気持ちはあるものの、これだけ丁寧に紡がれたドラマだからこそ、慎重に、長い時間をかけて作られたのだろう。ベイビーステップ、焦らずゆっくりと。いつかまた会えるその日まで、弱井先生がくれた言葉を反芻しながら日々を重ねたい。

■配信情報
土曜ドラマ『Shrink―精神科医ヨワイ―』
NHK+、NHKオンデマンド、Prime Videoにて配信中
原作:『Shrink~精神科医ヨワイ~』原作・七海仁/漫画・月子
脚本:大山淳子
演出:中江和仁
出演:中村倫也、土屋太鳳、井桁弘恵、三浦貴大、竹財輝之助、酒井若菜
第1話ゲスト:夏帆、余貴美子 ほか
第2話ゲスト:松浦慎一郎、土村芳、河相我聞、佐戸井けん太、小林薫
第3話ゲスト:白石聖、細田佳央太、ドリアン・ロロブリジーダ、中島ひろ子、光石研
制作統括:樋口俊一(NHK)、阿利極(AX-ON)
プロデューサー:久保田傑(オフィス・シロウズ)齋藤大輔
写真提供=NHK

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