中村倫也演じる弱井先生にまた会える日まで 『Shrink』は1ミリの無駄もなく隙のない一作に

『Shrink』弱井先生にまた会える日まで

 ドラマ『Shrink―精神科医ヨワイ―』(NHK総合)が幕を閉じた。今作は新宿ひだまりクリニックを舞台に、精神科医・弱井幸之助(中村倫也)と看護師・雨宮(土屋太鳳)が患者に向き合う姿を描いた作品である。

 未だ偏見が多い精神疾患を丁寧に扱っただけでなく、実際に生きづらさを感じている人が、いつか今作を受け取る日のことまで考えて作られたような、誠実さを感じる実写化になっていた。実際に番組公式サイトでは、原作漫画(原作:七海仁、漫画:月子)と同様に、心の悩みに関する相談窓口を紹介しており、今作が現実と地続きであることを指している。

 早くも放送が終わって一抹の寂しさを感じるものの、1ミリの無駄もなく隙のない構成力の高さに唸った。ドラマ版が一度完結した今、改めて全3話を振り返りたい。

 2024年9月現在、第13巻まで刊行されている原作漫画の中から、ドラマ版は「パニック症(第1巻)」「双極性障害(第2巻)」「パーソナリティ障害(第4~5巻)」を厳選。ある日突然パニック障害の発作に襲われたシングルマザー・雪村(夏帆)が登場する第1話では、日本における精神疾患への理解不足やパニック症の恐ろしさ、そして精神疾患が誰にでも起こりうる身近な病であることを示した。

 原作漫画においても第1話である「パニック症」編は『Shrink』において、まさにプロローグ的な位置付けにあるのだが、第2話「双極性障害」はさらに一歩踏み込んだ内容になっていた。気分が異常に高揚する“躁状態”と極端に落ち込む“うつ状態”を繰り返す「双極性障害」は判断が難しく、正しく診断されるまで8年近くかかった症例もあるという。ラーメン屋店主の谷山(松浦慎一郎)は早い段階で異変に気づき、早乙女メンタルクリニックに赴くものの、そこで処方された抗うつ剤で症状が悪化。同居していた妹(土村芳)も手がつけられなくなり、助けを求めるように駆け込んだのが新宿ひだまりクリニックだ。

 自殺のリスクが高まった谷山は、医療保護入院を余儀なくされる。患者本人が自身の“つらさ”を可視化し、無理のない範囲で症状と向き合っていた「パニック症」編に対して、第2話では「個人の努力だけでは解決できない問題もある」と指摘。それは患者を支える側も同様で、弱井は退院後の患者の社会復帰をサポートする精神保健福祉士の岩国(酒井若菜)や精神科病院の君島(河相我聞)といった各分野の専門家たち、さらには家族と連携し、チーム一丸になって、谷山の病と向き合う体制に入る。最終的に谷山は仕事を解雇され、社会的立場を失うラストは、雪村と対照的に苦味が残るものの、妹という最大の理解者を得られたことは、なににも代えがたい“希望”だった。

 家族や身近な人のサポートがいかに重要かを描きつつ、ドラマ『Shrink』が最終話「パーソナリティ障害」編で訴えたのは、“共依存”の危険性である。

 バーで働く小山内風花(白石聖)は学生時代から「境界性パーソナリティー症」を発症しており、拭いきれない生きづらさと親に愛されない孤独から、周囲に極端な怒りをぶつけ、自傷行為を繰り返している。それでも恋人の優(細田佳央太)は、いつも風花に寄り添い、彼女を支えていた。自信のない者同士は共依存関係に陥りやすい。風花に依存されることが、いつしか優自身の自己肯定感につながっていたのだ。

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