アニメーター・中村豊の真髄が詰まった『ヒロアカ』 “最強で最高”だったアクション表現

中村豊の真髄が詰まった『ヒロアカ』

 『僕のヒーローアカデミア』が8月5日発売の『週刊少年ジャンプ』にて最終回を迎えた。2014年の連載開始以降、国内外を問わずファンを獲得し、この10年を代表する漫画の1つといっても異論は出ないだろう。連載終了に合わせて公開された『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ユアネクスト』も、スマッシュヒットを記録している。今回は原作が描いてきたヒーロー観を踏まえながら、映像面・物語面の両者に着目していく。

  『僕のヒーローアカデミア』は2014年より『週刊少年ジャンプ』にて連載が開始されたヒーロー漫画だ。個性と呼ばれる特殊能力に人々が目覚めてしまい、それを悪用して犯罪に手を染めるヴィランを逮捕するなど、社会貢献のために活躍するヒーローになるために雄英高校に入学した緑谷出久と、1-Aに所属するクラスメイトたちとの共闘を描く。原作は全世界で1億部以上発行され、TVアニメは7期、劇場版も今回が4作目と、まさに時代を象徴するヒット作だ。

 『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ユアネクスト』は、過去3作から監督が交代して岡村天斎が務めているものの、脚本の黒田洋介など他の主要スタッフは変わらず続投し、原作者の堀越耕平が総監修を務めるなど、ほぼ過去作と同じ座組だ。

 まずは映像面から着目する。これまでの『僕のヒーローアカデミア』の集大成のような映像表現だった。制作を務めるアニメーションスタジオのBONESはアクション描写に定評がある。そして、その作画の中心人物として中村豊の名前が挙がる。

 中村は90年代ごろから頭角を現し、当代随一のスターアニメーターとして、国内外のアニメ作画ファンから高い支持を集めている。『COWBOY BEBOP』や『鋼の錬金術師』などの多くの作品を象徴するアクション表現を作画し、日本アニメにおけるアクションシーンのレベルを格段にアップさせた。縦横無尽に動き回るカメラアングルや、キャラクターが踊るように躍動する殺陣、時には真四角で表現され技の威力を示すエフェクト表現など、技巧を駆使することで迫力のある映像を生み出している。

 近年の中村の仕事は『僕のヒーローアカデミア』に関連するものが多く、劇場版のみならずTVシリーズでも素晴らしい技巧を表現しており、その存在がアクション作画における1つの象徴といっても過言ではない。圧倒的な実績と技巧によって成立している表現に憧れてアニメーターになった、あるいは絵が描けなくともアニメを観る際に作画表現に着目するようになったという声は、国内外を問わず大きい。それは『僕のヒーローアカデミア』におけるオールマイトと同じく「平和の象徴」ならぬ「アクションの象徴」という解釈も可能ではないか。

 今作はアクションシーンが盛り沢山で、特に後半のアクションシーンの迫力と長さに驚かされた。このアクション作画の表現が作品のテーマと合致している。メタ読みになるがオールマイトという平和の象徴が示した「次は君だ」というセリフは、そのまま中村豊というアクション作画の象徴が示す、その他のスタッフの成長と今後への期待とも受け取れる。『僕のヒーローアカデミア』は、大ベテランのスターアニメーターが手本となる「僕のアクション作画アカデミア」となり、技術と志の継承となっている。

 今作で中村は絵コンテ・作画監督に共同でクレジットされているが、特に後半のアクションシーンを中心に関わっているのではないかと推測する。そして、多くの作画スタッフとともに後半の作画を担当した結果が画面にも表現されていた。作画監督・原画・二原・動画など作画パートだけでも多くの人が手を加えていく日本の複雑な作画システムもあり、誰がどのパートをどの程度担当したのかは外部からは窺い知ることもできないが、その「僕のアクション作画アカデミア」の結果は完成した映像表現を観れば間違いなく成功だ。

 原作者の堀越耕平は『ダ・ヴィンチ』2024年8月号のインタビューの中で「『最高』って何なのかを探っていく連載になるんだろうな、と思っていました」と語っている。『僕のヒーローアカデミア』は“最強”ではなく、強さで決まらない“最高”を目指す物語というのが今作の肝だと続く。これを引用すれば、今作はアニメの作画表現として、まさにアクションの最強と最高を目指し、そう呼んでも差し支えない表現となった。

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