『僕のヒーローアカデミア』原作完結と劇場版『ユアネクスト』 強調される作品テーマとは

『ヒロアカ』原作完結と劇場版最新作に寄せて

 現在公開中の劇場版第四弾『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ユアネクスト』(以下、『ユアネクスト』)が公開初週で首位を獲得、3日間で60万人8500人動員、興収約8億9500万円を記録した。本作は「終章」でスターアンドストライプと死柄木弔が戦った直後、彼女が作った猶予の中でA組がダツゴクを捕縛しながら特訓している時のことを描いている。アニメではまさにその先の物語が展開され、原作漫画は第二次決戦を経たエピローグと共に8月5日、大団円を迎えた。原作完結と同タイミングに公開された『ユアネクスト』はそれゆえに『僕のヒーローアカデミア』(以下、『ヒロアカ』)を考えるうえで、非常に感慨深い作品かもしれない。

※本稿は『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ユアネクスト』および漫画『僕のヒーローアカデミア』の結末・最終話まで言及しています。

敵役・ダークマイトが体現する“象徴”

 本作はヒーロー活動に勤しむA組や緑谷出久の前に突如ダツゴクの人質となっている女性アンナと彼女の命を狙う謎の男・ジュリオ、さらにアンナを誘拐する“偽オールマイト”が登場することで物語が進んでいく。

 この“偽オールマイト”こそ後に「ダークマイト」と“自称”するヴィランなのだが、何を隠そう彼は歴代の敵役の中でも最も小物でありながら厄介でもある。死柄木のような「全てを壊す」といった幼少期のトラウマに基づく強烈な破壊衝動もなければ、荼毘のような誰かに対する強い怨恨を抱いているわけでもない。神野区でオール・フォー・ワンとの戦いを終えたオールマイトがテレビに向かって放った「次は君だ」という言葉を受け取った彼が抱いた動機、それは「オールマイト同等の強さを持ち、人々を従わせる」といったものだった。そして自分の容姿をオールマイトに限りなく似た形に“変身”させ、混沌を極める日本に現れる。

 動機こそ仕様もないが、この“変身”を可能にした彼の個性「錬金」は興味深い。触媒を使って例えば土塊の錬金兵や巨大な拳など、様々なモノを作り出すことができるわけだが、この触媒となっているのが「金貨」なのが、彼の素性であるイタリアン・マフィア感があって良い。ヨーロッパ圏最大の犯罪組織「ゴリーニ・ファミリー」を率いる彼だからこそ、有り余る財をそのまま“力”に変える。まさに、マネーイズパワーの精神で他者を殴り、思い通りにしてきた。しかし、そんな正体と個性だから余計にオールマイトが人々を従えているのではなく、“人々がオールマイトに従う理由”に気づけなかったのである。それどころか、オールマイトの活躍や存在を非常に浅はかな形でしか読み解かず、なお曲解して間違った理解をしている。本編や劇場版を合わせてこれまで数多くのヴィランが登場してきたが、この点が“ダークマイト”ことバルド・ゴリーニが最も愚かな敵と言われる所以なのだ。

 それでも怖いのは、彼のような「暴走型の信仰者」という存在が現実世界にて珍しいものではないこと。誰かの上辺だけの言動や活躍を自分に都合よく解釈し、極めて狭い価値観の中で断定的な判断や言動を下す。そういった独善的なコミュニケーションによるトラブルが、SNSを中心にリアルの対面でもどんどん起きやすくなってきたように感じるのは気のせいだろうか。

 真実か嘘かもわからない情報に踊らされ、不安定な政治や社会の中で常に不満を抱える人が増え、対立が煽られるような環境に陥りやすくなった。そんな今の世の中で、おそらく最後の劇場版として発表された『ユアネクスト』のヴィランは、「ただの傍迷惑なやつ」と笑って片付けるにはあまりに危険な存在なのだ。その恐ろしさを強調するように、アンナの個性を利用して増幅された彼の個性は街全体を飲み込み、住民を巨大な要塞に閉じ込めてしまうほど圧倒的で強大。下手したら死柄木やOFAに匹敵する敵なのである(死柄木が物を壊すことに対しゴリーニが作る個性、錬金で複数の個性を持つかのように動ける点でOFAに似た戦い方ができるのも興味深い)。

 しかし、そんなヴィランと対峙するからこそ改めてオールマイトが放った言葉であり、完結した『ヒロアカ』そのものが我々に放った作品のメッセージ性が胸に響く。

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