『虎に翼』米津玄師が歌詞に込めた“未来への展望” 「さよーならまたいつか!」を分析
そして繰り返し登場するのが“100年先”という言葉だ。誰かが切り開いてきたものが、その人が生きていなくても100年先にも受け継がれ、人々の生活を豊かにする。令和の現在も法律が人々の生活を支えていることは、このドラマと曲が見事に重なり合う部分だと言えるだろう。
ちなみに2番の〈しぐるるやしぐるる町へ歩み入る〉は、俳人の種田山頭火の作品へのオマージュが込められている。元になっている「しぐるるやしぐるる山へ歩み入る」という俳句は「冷たい雨が降り続く中でも前進し続ける」という意味で、まさに寅子の姿勢そのものを表現しているだろう。続く〈人が宣う地獄の先にこそ わたしは春を見る〉という歌詞からは、寅子が幾度となく直面してきた(はる曰く)「地獄」と呼ばれる困難を乗り越え、その先にある希望を見据える強さが感じられる。
タイトルの「さよーならまたいつか!」は一見別れの言葉のようだが、本作では別れと同じくらい再会の場面も重要な意味を持つ。最近の『虎に翼』では明律大学女子部法科での友人たちとの旧交を温める場面や、稲(田中真弓)との思いがけない再会などが描かれており、まさに一度離れ離れになった人々との縁が再び結ばれる様子を示唆しているようだ。
再会した仲間たちは、それぞれに事情を抱えていた。遺産相続で揉めていた梅子(平岩紙)、名を変えて新しい人生を歩み始めた崔香淑(ハ・ヨンス)、華族制度の廃止によって生活が変わった涼子(桜井ユキ)。人生には様々なフェーズがあり、子育てや仕事、家庭の事情など、それぞれに大変な時期がある。しかし、いつかはまた皆で笑い合える日が来る。困難を乗り越えて成長し、再び出会い、喜びを分かち合う。そんな人生の循環を、「さよーならまたいつか!」は優しく、そして力強く表現しているように思う。
同時に、この歌は寅子の個人的な成長だけでなく、彼女が切り開こうとしている未来への展望も込められているように感じた。寅子が掴んだ「力」は彼女一人のものではなく、寅子を憧れに感じたような、後に続く多くの女性たちのためのものでもある。寅子たちが切り開いた道が、100年後の未来にどのように受け継がれ、発展していくのか。
その壮大な時間の流れの中で、人々が出会い、別れ、そしてまた再会していく様こそが、主題歌とともに『虎に翼』に込められた景色なのではないだろうか。
参照
※ https://natalie.mu/music/pp/yonezukenshi26
■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、岡田将生、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、戸塚純貴、岩田剛典、田中真弓、羽瀬川なぎ、田口浩正、遠山俊也、望月歩、堺小春、田中美央、竹澤咲子、名村辰、松川尚瑠輝、岡部ひろき、高橋克実
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK