『虎に翼』“大吉派”と“華丸派”どちらがより楽しめる? 史実からの脚色に込められた意図

『虎に翼』朝ドラはどこまで史実どおりなのか

 一方で、史実よりもマイルドな演出になっていたのが、『ブギウギ』(2023年度後期)でのスズ子(趣里)の出産シーンではないだろうか。ドラマでは、スズ子が娘の愛子を産む瞬間と、彼女の最愛の婚約者・愛助(水上恒司)が結核で亡くなる瞬間がほぼ同時に描かれ、スズ子が愛助の死を知ったのは出産後だった。

『ブギウギ』第18週「あんたと一緒に生きるで」を振り返る スズ子の出産と愛助の死

毎週月曜日から金曜日に放送されているNHK連続テレビ小説『ブギウギ』(土曜日は1週間の振り返り)。第82話から第86話までの第1…

 しかし実際は、スズ子のモデルである笠置シヅ子が娘を産む数日前に、すでに婚約者である吉本穎右の死は知らされており、それを知ってからの数日は、ショックのあまり、自分が穎右の吹くラッパで歌って踊る夢を見るなど夢現の状態だったという。そして、生前に穎右が身に着けていたもので唯一、シヅ子の手元に残った穎右の浴衣と丹前を大事にし、陣痛に襲われたときは浴衣を抱きしめて耐えたとされる。シヅ子の穎右への愛がひしひしと伝わってくる実際のエピソードは、そのままドラマになりそうである。でも、もし朝ドラで史実通りにスズ子の出産の瞬間が描かれていたとしたら、一日中悲しさと切なさを抱くことになる視聴者も出てきそうだ。脚色というのは、朝に観られるという特色のある“朝ドラらしさ”を保つ上でも大事なものなのかも知れない。

 話は冒頭に戻るが、何も調べずにドラマを楽しむ“華丸派”は、『虎に翼』ならではの寅子の人生と彼女や周りの人の成長、変化を楽しむことができるだろう。逆に史実を知ってドラマを楽しむ“大吉派”は、ドラマと史実の“違い”からドラマで描きたいこと、伝えたいことに注目できるのかも知れない。さて、あなたはどちら派だろうか。

参照
清永聡『三淵嘉子と家庭裁判所』(日本評論社)
砂古口早苗『ブギの女王・笠置シヅ子 ー心ズキズキワクワクああしんどー』(新潮文庫)

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、岡田将生、森田望智、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、田中真弓、羽瀬川なぎ、望月歩、岡部ひろき、片岡凜、竹澤咲子
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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