『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』S2ならではの欠陥が 精細を欠くデイモンのサブプロット

 “双竜の舞踏”はハレンの巨城(ハレンホール)へ戦局を移しつつあった。デイモン・ターガリエン(マット・スミス)に占拠された要衝を奪還すべく、翠装派はジェイソン・ラニスター(ジェファーソン・ホール)率いる先鋒を派遣。しかし巨竜ヴァーガーを投入する後詰の要請をエイモンド(ユアン・ミッチェル)は撥ねつけた。“摂政王子”の権力を得た今、彼の傲慢さは留まるところを知らず、懸命に我が子を諭す母アリセント(オリヴィア・クック)を尽く軽んじ、あまつさえ実家のオールドタウンへ帰るように言い放つ。普遍的な母親の苦悩を吐露するアリセントに、兄グウェイン(フレディ・フォックス)は「お前のせいではない」と労いの言葉をかける。「王宮は男子の養育に良くない」との言葉通り、アリセントの三男デイロンはオールドタウンで育てられており、物語に登場するのはまだ先のことだ。

 そろそろ指摘せずにはいられないのが、シーズン2に入って精細を欠くデイモンのサブプロットである。ハレンホールは彼の精神を蝕み、悪夢と現実の境は曖昧になっていく。シーズン2第3話ではミリー・オールコック、第6話ではヴィセーリス役のパディ・コンシダインが再登板するも、シーズン1と全く同じセリフを繰り返すばかりの展開は時間稼ぎに終始し、ストーリーの停滞はいよいよ限界である。原作小説でもシーズン2にあたる箇所にデイモンはほとんど登場せず、ショーランナーの苦肉の策は脚本の開発不足と言われても仕方がない。タイムジャンプを駆使した年代記のシーズン1とは異なり、従来の連続ドラマ形式に戻ったシーズン2ならではの欠陥だろう。

 黒装派では騎竜者の選抜が行われていた。原作小説『炎と血』によれば後に“血の収穫”と呼ばれる出来事である。ターガリエン家とは遠縁にあたるダークリン家の騎士サー・ステッフォン(アンソニー・フラナガン)に白羽の矢が立ち、主を失って久しいシースモークへの騎竜が試される。だが、ヴァリリアの末裔ですら難しいドラゴンの制御を遠縁の者ができるわけもなく、サー・ステッフォンは憐れにもドラゴンに焼き殺されてしまう。レイニラ(エマ・ダーシー)に対する評議会の批判はさらに強まり、彼女はとっさに参議を平手打ちする始末だ。

 今や黒装派で機能しているのはミサリア(ソノヤ・ミズノ)の計略だけである。彼女は王都(キングズランディング)で困窮する市民に向けて、食料船を渡す。いわゆる"市民活動家”であるミサリアならではの諜報戦は、民衆に翠装派への反感を募らせ、ついには暴動へと発展。本エピソードの監督アンドリー・パレークは『メディア王~華麗なる一族~』の傑作回、シーズン4第8話『アメリカの決断』を手掛けており、天上人のような主人公ロイ家と一般市民の交錯する大規模デモシーンをハイライトとしていた。『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』シーズン2は、一部の特権階級による社会政治の支配といったモチーフにより自覚的である。

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