『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』S2開幕早々にみたシリーズの醍醐味 第1話から積極的な脚色

『HOTD』S2第1話から積極的な脚色

 戦争だ! いよいよ何頭ものドラゴンが宙を舞い、王国を二分する大戦“双竜の舞踏”が幕を開ける。今やスペクタクルは映画だけの専売特許ではない。ハリウッドが興行的不振にあえぐ今夏、テレビドラマの概念を覆した大作『ゲーム・オブ・スローンズ』の前日譚、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』シーズン2が9週間に渡って話題の中心になるのは間違いないだろう。

 しかし未見の人にとっては『ゲーム・オブ・スローンズ』も合わせて計9シーズンにも及ぶ大河ドラマに、今から追いつこうとするのは気が重いところ。いや、予習すべきは『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』のみで十分だ。7〜8話程度で構成されるリミテッドシリーズが主流となり、製作陣も昨今の視聴傾向は心得たもの。本来なら2〜3シーズンはかけるべきところ、やはり王室の内幕を描いたNetflixの人気作『ザ・クラウン』よろしく約20年間を1シーズンに凝縮する手法で早々に物語のセットアップを終わらせ、最新作でさっそく本題に入っている。長きに渡って平和を保ってきたターガリエン王朝に後継者問題が勃発。王の第1子レイニラ王女(エマ・ダーシー)と、王と2番目の妻アリセント王妃(オリヴィア・クック)の間に生まれた嫡男エイゴン(トム・グリン=カーニー)が互いに継承権を訴え、両陣営は対立を深めていく。ジョージ・R・R・マーティンの原作『炎と血』は戦記小説としての筆圧が強く、2大勢力による内戦が繰り広げられる章『竜王の裔たち 揺れる王位継承権』を題材とする本作が、『ゲーム・オブ・スローンズ』以上に権謀術数とアクション、スペクタクルに重きを置いた戦国時代劇を標榜しようとしていることが伺える。

 原作者の遅筆もありテレビオリジナルの展開に突入し、世界中で賛否を巻き起こす結果となった『ゲーム・オブ・スローンズ』とは異なり、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』は脚色に自由度の高さがあるのも1つの特徴だ。後世の学匠が著した歴史書という体裁の原作『炎と血』は一般的な物語の形式を取っておらず、いくらでもキャラクターやテーマを膨らませられる余裕がある。前シーズンでは人工妊娠中絶や来たる大統領選挙を前にしたアメリカの分断など、現代的イシューが多くちりばめられる同時代性の強さがあった。

 シーズン2もまた第1話冒頭から積極的な脚色が施されている。懐かしいテーマ曲と共に映されるのは、まだ積雪も少ないウィンターフェル。スターク家の若き王クリーガン・スターク(トム・テイラー)がレイニラの長男ジャセアリーズ(ハリー・コレット)に謁見する。原作では彼らが友好を深め、ジャセアリーズがスターク家の落し子サラ・スノウと結ばれるという『ゲーム・オブ・スローンズ』にも連なる両家の宿命が描かれているが、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』はこのエピソードをバッサリ切り落としている。オリジナルシリーズが約10年をかけてキャラクターと俳優を育んでいったのに対し、性格俳優が揃ったメインキャストに比べ、矢継ぎ早に紹介されてきた若手キャスト陣はまだまだカリスマ性に乏しく、後に主演スターへと成長したキット・ハリントンやエミリア・クラークの輝きには及ばない。シーズン2第1話ではコアリーズ・ヴェラリオン(スティーヴ・トゥーサント)を救ったという船乗りアリン(アブバカル・サリム)や、キングズランディングで陳情する鍛冶屋ヒュー(キーラン・ビュー)など、原作で後に重要な役割を担う登場人物も紹介されるが、同等の見せ場がテレビシリーズで与えられるかは未知数だ。『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』の課題は『ゲーム・オブ・スローンズ』に劣らぬ魅力的なキャラクターの創出にある。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる