『虎に翼』寅子が優未に見た“優三の面影” 岡田将生「ゆうべ、泣きましたか?」が響く
『虎に翼』(NHK総合)第78話では、山の境界線をめぐる現地調停で、寅子(伊藤沙莉)が、申立人の森口(俵木藤汰)と書記官の高瀬(望月歩)との間で起きたトラブルに巻き込まれてしまった。
高瀬は心配する寅子に向かって「もういいですから! よそ者のくせにこっち側のふりをしなくて!」と口にする。「波風を立てず『立つ鳥跡を濁さず』でお願いしたい!」という高瀬の言葉、それをたしなめる深田(遠山俊也)もまた同じ気持ちではないのかという小野(堺小春)の言葉が、寅子の胸にチクリと刺さる。「思っていらっしゃることをお話ししてくださった方が、黙っていられるよりずっといい」と笑顔で返した寅子だったが、支部長室に入る前、やるせない表情を見せた。心労が重なり、寅子が追い詰められやしないかと不安になる。
そんな第78話で、寅子は優未(竹澤咲子)に優三(仲野太賀)の面影を見る。優未は再びテストの点数をごまかそうとしていた。寅子がそんな優未と向き合うと、優未は「テストの時になるとぎゅるぎゅるってなる……」と打ち明ける。緊張するとお腹が痛くなるなんて、優三そっくりだ。寅子は肩の力が抜けたように笑った。
「お父さんに似ちゃったか。ハハハ」
優三や優未にとっては深刻な悩みだとは思うが、寅子にはそれが愛おしくてたまらない。そんな笑顔だった。
伊藤の演技は、優三や優未に対する深い愛情が感じられるだけでなく、いまだ癒えることのない優三の死に対する深い喪失感が伝わってくるものだった。優三のことを話そうとする場面で、寅子は、亡き父親のことをもっと知りたいと願う娘の気持ちに応えたいと思っていたはずだ。しかし困ったような笑顔が徐々にこわばっていき、ふいに泣き出してしまいそうな表情へと変化していく様は観ていてとても切なかった。なかなか言葉にできないことに自分自身が戸惑っている様や、眠っている優未の横で、声を押し殺して泣く姿に胸が締め付けられる。