『【推しの子】』で“見つかった”石見舞菜香の躍進 黒川あかねとして放つ演技の凄み

『【推しの子】』で見つかった石見舞菜香

 演技者が演技者の役を与えられて、どう演技するかを見られるプレッシャーはいったいどれほどのものだろう。声優の石見舞菜香が『【推しの子】』で演じている黒川あかねが、まさにそんな役。そして石見舞菜香は、黒川あかねがつきあたる壁を突破し、自身のキャリアも切り開いてさらなる高みへと登ろうとしている。

 「そうだねアクア」。TVアニメーション『【推しの子】』の第1期第7話「バズ」で、黒川あかねがそう言葉を発した瞬間に、キャラクターから立ち上る雰囲気が変わった。生真面目で実直そうな女優から、奔放で無邪気なアイドルへと変貌を遂げた黒川あかねに、「恋愛リアリティショー」で共演していたアクアは母親のアイと同じ星がきらめく瞳を見た。

 赤坂アカ原作、横槍メンゴ作画の漫画でもハッとさせられるシーンだが、絵で見せるだけでなく声でも聞かせなくてはならないアニメーションの場合、そこに嘘があっては興ざめしてしまう。誰よりもアイのことを知っているアクアにアイだと思わせなければならない。そんな演技を黒川あかねがしてみせたということは、黒川あかねを演じていた石見舞菜香もそうした演技をしていたということになる。

TVアニメ『【推しの子】』第2期メインPV第2弾【2024年7月3日より放送開始】

 それは、アニメーションの中のアクアを通り過ぎて、観ている人にもしっかりと刺さって大きな評判を呼んだ。劇団「ララライ」の若きエースで天才役者という評判も得ている黒川あかねという役を、「恋愛リアリティショー」に登場してから演じて来ただけでも大変だっただろう。黒川あかねが徹底して役をプロファイリングして成り切るようなアプローチをして、近づいていったのかもしれない。

 その上に、『【推しの子】』という作品世界を超えて神アイドルとしての評判が鳴り響くアイという役にも近づかなくてはならなかった。その苦労が、「バズ」の中で黒川あかねが行ったような徹底した研究だったかまでは分からない。だが成果として見せてくれたアイのような振る舞いは、キャラクターとしての黒川あかねの持つ凄みをしっかりと示し、そして演じた石見舞菜香という声優の持ち味も満天下に示してみせた。

『【推しの子】』石見舞菜香が「バズ」を生んだあかねの演技 ファン&関係者から絶賛の声

5月24日に放送されたアニメ『【推しの子】』第7話にて、石見舞菜香が演じる“アイになりきった黒川あかね”が大きな話題となっている…

 振り返れば、岡田麿里監督のアニメーション映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』(2018年)で、マキアという役で主演した時から、難しい役をナチュラルに演じる芸達者ぶりを感じさせてくれていた。長命のエルフとして生まれたマキアは映画に10代の頃から登場し、人間の赤ん坊を拾って育て、その赤ん坊がエリアルという名で大人となり、最後は老人となっても若い姿を保ち続ける。

 演じた石見舞菜香の声音こそ若いままだが、ベッドに横たわる老人に「いっぱい、一生懸命生きてきたんだね、エリアル」とかける声には慈母の感情が滲み、観ている人をエリアルともども癒やして和ませる。その後も数々の作品ヒロインを演じ、佐伯さんのライトノベルを原作にしたTVアニメ『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』では、優しい中に陰ももった椎名真昼という少女を演じて、観ている人を文字通りに駄目人間にさせた。

 癒やし系。重なるとしたら『マリア様がみてる』で白薔薇さまこと藤堂志摩子を演じた能登麻美子であり、『魔法科高校の劣等生』で司波深雪を演じている早見沙織であり、7月から始まった『小市民シリーズ』で小山内ゆきを演じている羊宮妃那といった名前があがるカテゴリーだが、そうした中にあって石見舞菜香も遜色のない癒やしをもたらす。そして同時に、こうして挙がる声優たちがそれぞれに発揮する演技巧者ぶりに負けない幅広さも聞かせてくれる。

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