『ゴジラ-1.0』に引き継がれた“エッセンス” 今こそ振り返りたい『ゴジラ』シリーズの魅力

今こそ振り返りたい『ゴジラ』シリーズの魅力

 「このシリーズ、どこから入ればいいんですか?」……コンテンツが溢れかえり、シリーズものが大量にある昨今。この質問が飛ぶ機会が増えた。『ゴジラ』シリーズ(1954年~)も例外ではない。しかし、この質問は宣戦布告を意味する狼煙でもある。

 一度この問いかけを場に出した途端、ゴジラのファン同士の悲しきプレゼン抗争が勃発する。「やはり初代『ゴジラ』(1954年)」「大ヒットした『シン・ゴジラ』(2016年)かな」「ハリウッド版も捨てがたい!」「カルト人気のある『ゴジラ対ヘドラ』(1971年)」……次々と言葉の銃弾が飛び交うこの抗争に1つの答えを出したのが『ゴジラ-1.0』(2023年)である。同作は『ゴジラ』シリーズの入り口として最適な1本だと思う。

 2023年に公開されるや、日本はおろか、海外でも大ヒット。そんな『ゴジラ-1.0』がWOWOWでテレビ初放送されることを記念して、なんと国内実写シリーズ28本が配信中だ。今回の記事ではそれにかこつけて、ゴジラというキャラクターの歴史と特殊性に触れつつ、『ゴジラ-1.0』の魅力を語っていきたい。

『ゴジラ』シリーズの魅力が詰まった『ゴジラ-1.0』

 私が思う『ゴジラ-1.0』の魅力の1つは、過去の『ゴジラ』シリーズの魅力をギュッと絞った点だ。『ゴジラ』(1954年)は実に長く、複雑な歴史を持ったシリーズだ。1作目の『ゴジラ』は、まだ戦争の記憶が生々しく残る1954年に公開された。今なお怪獣映画の金字塔と語られるこの映画は、様々な側面を持つ。東宝特撮が炸裂するパニック映画として、反核反戦の祈りを込めた政治的な映画として、ゴジラを中心に展開する人間ドラマ、そして自己犠牲の物語として……いくつもの魅力がある作品だ。

『ゴジラ-1.0』©2023 TOHO CO.,LTD.

 『ゴジラ-1.0』は初代『ゴジラ』を思い越させる要素が多いのも特徴だろう。舞台になる時代は戦後の間もない頃であり、物語のテーマも「特攻隊」「核」「戦争」といったシリアスなもので、「反核反戦」のメッセージも色濃い。劇中で最も強烈なシーンは、やはり国会議事堂へのゴジラさん怒りの一撃だろう。消費税と物価は上がる割に給料は上がらず、生活は苦しくなるばかり。一方で政治家の不祥事・不正は総じて曖昧な灰色決着。こういった世に喝が入るようで嬉しい。ワイドショーの芸能人の苦言は心に響かないが、ゴジラの喝はいつだって背筋が伸びる。ちなみに『ゴジラ』(1954年)でも、ゴジラが国会議事堂を破壊するシーンで、劇場で拍手喝采が起きたという逸話がある。『シン・ゴジラ』でも東京を火の海にしていた。日本に闘魂ビンタをするのもゴジラの仕事の1つである。

『ゴジラ』(1954年)©1954 TOHO CO., LTD.

 しかし、『ゴジラ』シリーズがただシリアスなだけの作品かと言うと、そうでもない。そもそも、『ゴジラ』シリーズはシリアスなテーマを内包しつつ、娯楽性、時に迷走と見なされるほどの実験性があったから、今日まで続いたのだ。

「昭和ゴジラ」が模索したゴジラの主人公としてのスタンス

 『キングコング対ゴジラ』(1962年)を経て、いよいよ「昭和ゴジラ」が本格的に量産される時代になると、ゴジラの立場に変化が起きる。ゴジラはこれまでの凶暴な存在から、映画の主人公らしく、さらに主なファン層である子どもたちのために、正義の味方方向へキャラクター性が変化したのだ。昭和ゴジラシリーズは、ゴジラの魅力、ひいてはゴジラの主人公としてのスタンスを模索するための旅路だったと言っていい。コミカルなシーンも増えて、当時流行のギャグ「シェー」をしたり、吹き出しで会話をしたり、数々の迷シーンが誕生した。

『キングコング対ゴジラ』(1962年)©TOHO CO., LTD.

 この路線変更は当然、賛否両論を巻き起こした。私自身も平成の頃にさかのぼって「昭和ゴジラ」に触れた際、幼心に「ゴジラなんだから、子どもに媚びないでほしい」と思ったものだ(子どもは子ども扱いされるのを何より嫌うものである)。しかし、この時代があったからこそ、ゴジラの“芸風”の幅は確実に広がった。『シン・ゴジラ』で『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年~)の劇伴を流すことや、『ゴジラ-1.0』でゴジラが放射熱線を吐くシーンの背びれの演出など、様々な新要素・新解釈が生まれても、「まぁ、昭和ゴジラだと放射熱線で空を飛んでいたしなぁ」と受け入れることができる。人々の心を大らかな気持ちにしたのは、間違いなく昭和ゴジラの功績だ。それにハリウッド版の最新作『ゴジラxコング 新たなる帝国』(2024年)だって、恐らく昭和ゴジラがなければ存在していないし、あんなに面白くなかっただろう。

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