『響け!ユーフォニアム』に“つながれた”あらゆる思い 京アニの継承の軌跡がここに

『ユーフォ3期』に“つながれた”あらゆる思い

 本作を観てきたファンにも同様のことが言えるだろう。第1期の頃であれば、1年生の久美子の状況と視聴者が一致し、実力主義を主張する麗奈に感情移入することができた。そこから追いかけているファンは久美子目線で物語を鑑賞するため、ここまでの努力を知っているからこそ、どうしても久美子に肩入れをしたくなる。実力主義を唱える麗奈が悪役のように見えてしまう部分もあるだろう。これもここまでの「思いをつな」いできたからこそ、久美子たちの悩みと視聴者の感情が共振していくことになる。

 一方で第3期から見始めた視聴者は、ここまでの前提となる情報がないために真由の気持ちが理解できると同時に、肩入れしたくなるのではないか。真由は何度も辞退を主張したが、久美子はそれを拒否して実力主義を主張する。だからこそ実力を発揮して、顧問の滝昇に選ばれることとなった。シリーズを観続けてたファンと、新規ファン、どちらの視点も作品に取り入れようとする試みとしても評価することができる。

 そしてそれはスタッフで見ても同じだ。メインスタッフではシリーズ演出であった山田尚子が抜け小川太一が副監督に、総作画監督は池田晶子から池田和美へ、楽器作画監督は高橋博行から太田稔へと継承されていった。まさに『響け!ユーフォニアム』シリーズの歴史は、この10年ほどの京都アニメーションの「思いをつなぐ」歴史でもある。

 京都アニメーションに長年勤めているスタッフ以外にも、新しく入ってきたスタッフが各部門におり、その人々が作品を制作していることだろう。そして中には、卓越した技術を持っている人も、技術は未熟でも面白いと思わせる表現を持つ人もいるのではないか。北宇治高校吹奏楽部は、いい作品を目指して切磋琢磨するスタッフであったり、あるいは応援したいというファンのメタファーとしても機能する。

 最後に麗奈の第2話のセリフを引用したい。

「北宇治の演奏は上手い。だけど上手いだけでは全国金はとれません。なぜならば上を目指す学校はどこも上手いからです。北宇治は1番を目指しましょう。今の自分で満足するのではなくて、さらに上を行く未来の自分を追いかけましょう。全国金、取りに行きます」

 この言葉の北宇治を京アニに、そして吹奏楽の話をアニメ論として解釈すると、今作においてスタジオが目指すものが明確に見えてくるのではないか。そこには長年活躍したスタッフも新しいスタッフも、昔からのファンも新しいファンも「思いをつな」いで、包んだ結果の新しい北宇治の演奏、そして京アニの表現が登場するのではないか。

 北宇治高校がどのような全国金に向けた演奏を見せてくれるのか、注目したい。

■放送情報
『響け!ユーフォニアム3』
NHK Eテレにて、毎週日曜17:00〜放送
キャスト:黒沢ともよ、朝井彩加、豊田萌絵、安済知佳、戸松遥ほか
原作:武田綾乃
監督:石原立也
副監督:小川太一
シリーズ構成:花田十輝
キャラクターデザイン:池田晶子、池田和美
総作画監督:池田和美
楽器設定:髙橋博行
楽器作画監督:太田稔
美術監督:篠原睦雄
色彩設計:竹田明代
撮影監督:髙尾一也
3DCG監督:冨板紀宏
音響監督:鶴岡陽太
音楽:松田彬人
アニメーション制作:京都アニメーション
製作:『響け!』製作委員会
©︎武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024
公式サイト:https://anime-eupho.com/

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