『ヒーローではないけれど』の見事な伏線回収 チャン・ギヨンの新感覚タイムリープが終幕

『ヒーローではないけれど』の見事な伏線回収

 イナの学校で行われるダンスの舞台を見に行くポク家とサウナ一家。ここでの両家の楽しそうな姿に和ませられる。孤独だったイナを愛する家族が2倍になったのだ。イナは、ギジュが見守る中で活き活きとしたダンスを披露する。そんな中で、ドンヒを諦めきれないジハンが学校に乗りこみ、ドンヒにプロポーズをするが、それが元で火災を引き起こしてしまう。マヌムの見た予知夢の情報は断片的なものであり、13年前の火災ではなかったのだ。

 “ギジュの死”が予見されてから、どんな形でギジュの死を回避できるのかが視聴者の興味の対象となっていたが、予想を上回るミラクルな展開で伏線回収が行われた。

 本作のポスターの中で、ポク家の面々がそれぞれ窓枠の中に納まったデザインのものがある。そこには、それぞれのキャラクターとともに「影」が写っている。ギジュの影は悩み落ち込む姿であり、マヌムの影はポク家に君臨する巨大な影だ。ドンヒの影は細身だった頃で、超能力者でないギジュの父スング(オ・マンソク)の影は、スーパーヒーローの姿をしている。そして、これまで「影」を生きてきたイナには、影に隠れた透明人間の自分が寄り添っている。

 そして唯一、カーテンが閉じられ、姿が見えない人物がいる。その影は、ギジュの影に似ているがさらに大きなものだ。その姿は悩み苦しんでいるのではなく、ある瞬間へとタイムリープする場所を思い出しているようにも見える。この影に隠された謎が、予想もしなかったミラクルとして、物語を華麗に終幕させたのだ。本作を見守ってきた視聴者たちをアッと喜ばせた仕掛けは、ぜひその目で確かめてもらいたい。

 誰もが憧れる能力を持ちながら、その能力のせいで悩み、苦しみ、もがくポク家の姿は、我々視聴者と同じだ。誰にでも「天賦の才」は与えられているという。持って生まれた才能を活かして人生の花道を歩む人もいれば、才能ゆえに苦しむ人もいる。さらには、自分にはそんな才能は無いと思い込み、見失い、落ち込む人もいる。マヌムとドンヒのように、子どもの人生に口出しをして、親子ともども苦しむ人たちもいる。そのどれもが私たちにとって身近なことだ。

 チャン・ギヨンが除隊後復帰作として選んだ本作は、ただのロマンティックコメディに収まらない、家族愛や登場人物たちの成長物語を含んだ素晴らしいものだった。チャン・ギヨンとチョン・ウヒのケミストリーは抜群で、どのキャラクターにも愛着を持ってしまうくらい人物描写と俳優たちの演技も素晴らしかった。

 成長したイナのその後や、母の呪縛から抜け出したドンヒに咲いた新しい恋の花など、まだまだ観ていたい気持ちにさせられる。「家族」をテーマに、「人は人によって苦しむけれど、また人によって救われる」、そして「誰もがヒーローになれる」ことを描いた本作は、人に勧めたくなる良作だった。

■配信情報
『ヒーローではないけれど』
Netflixにて配信中
出演:チャン・ギヨン、チョン・ウヒ
(写真はJTBC公式サイトより)

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